約 1,837,640 件
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/88.html
パンがなければお菓子をお食べ ◆ZimMbzaYEY 穏やかな川面が陽光を反射してキラキラと輝いている。川面の周辺は豊かな緑に囲まれており、レッドリバーに似ているなという感想をソシエに与えた。 成人式の前にした沐浴や溺れていたロランを助けた記憶が呼び起こされ懐かしさが胸を満たしたがアスファルトに舗装された道路と橋がソシエを現実に引き戻す。 産業革命をようやく迎えたばかりといった世界から来たソシエにとって技術的に大きな較差のあるそれらは見慣れないものだった。 どうせあれも月の技術の一部かなにかだろうとあたりをつけたソシエはせっかくの感慨を台無しにされたことに気づき少し腹を立てた。 しかし、すぐに怒ってもしかたのないことだと思い直し正面を見据える。 岩山の影に隠れつつもはるか遠方にわずかに顔をのぞかせているそれは町のように見えた。 しかし、そこに建ち並んでいる建物はソシエのよく知った木や石や煉瓦でできた温かみのあるものではなくもっと冷ややかな別のものでできているように思えた。 好奇心をくすぐられたソシエはそこを目的地と定め、空中に浮かぶドスハードの向きを整える。 飛行機の風を切るような感覚とは異なるドスハードの浮遊感にもここ数時間の慣熟飛行でようやく体になじんできたところだった。 単調な運転に飽きてもきていた彼女はもう一度目的地を見やると機体のスロットルを一気にひいてドスハードを加速させる。 周囲に映る外の映像の流れが急速にはやくなったがそれだけだった。 微動だにしないコックピット内の空気に包まれていれば風を感じることもないし、そこから高揚感もうまれはしない。 実際には急加速時や戦闘時に生じるGからパイロットを防護するショック・アブソーバーが正常に働いた結果ではあったがそんなことはソシエの知ったこっちゃない。 拍子抜けする思いで味気なさを感じたソシエは岩山を迂回する進路を設定した。 地平線の彼方に湧き上がった入道雲が徐々に大きくなり視界を埋めていくさまをシンヤはぼんやりと眺めていた。 倒れふして既に30分がたっていた。明日か、明後日か、いずれにせよそう遠くない未来に訪れる死の気配を感じつつなんて間抜けな終わり方だと自嘲する。 その傍ら別の思考は兄に対する情念を生への糧に生きることを望み悲鳴をあげていた。 ふっと日が翳り先ほどの入道雲が思ったよりも早くこちらへ来たのに気づくと夕立でもこないものかと期待したがそんな気配はなかった。 そのかわりに彼の頭上から降ってきたのは幼さの残る少女の声だった。 「あなた、なにやってるの?」 ソシエがシンヤを発見したのは約十分前のことだった。遠方に何かが太陽の光を反射して光ったと思ったソシエはたいして考えもせずにそちらに向かった。 近づいてみるとそれはとても小さな機械人形だとわかり不用意に近づいたうかつさに気づく。 しかし、2m程度の地に伏した相手に対して50m程の巨体で隠れもせずに中を飛ぶ自分。 いまさら隠れてもしかたないなと開き直ってまっすぐ近づいていったソシエは一向に動く気配のない相手を不思議に思い 「あなた、なにやってるの?」 と思わず声をかけてしまった次第であった。 さっきまではもう動けないと思っていたにも関らずいざとなると意外と動けるものだと妙に感心しながらシンヤはふらつく体で立ち上がり頭上を見上げた。 ソシエの側からすると全周囲型モニターによってシンヤは足元に映し出されているのだが、シンヤの視界にはドスハード巨大な足の裏しか映らない。 そのことに若干苛立ちを感じつつシンヤは考える。 これは食料を得るチャンスだ。しかし、なるべく戦闘は避けよう。以前の戦闘のように食料ごと相手を吹き飛ばしてしまったらもともこともない。 なによりこの状態で戦闘をして万が一食料が手に入らなければどうなることか・・・。空腹のせいか録に考えもまとまらない。 まずは食料を得ることが先決。その一点のみを留意してシンヤは口を開いた。 「おとなしくこちらに食料を渡してもらおうか・・・。そうすれば楽に死なせてあげるよ」 食料を分けてもらう為に人間風情に頭を下げる気は彼にはまったくと言っていいほどなかったようだ。とりあえず戦闘を回避しつつ食料を手に入れようという人の台詞ではない。 「イヤよ」 そのぞんざいな物言いに反感を覚えたソシエは即答した。 その後でこの人は空腹で倒れていたのかと思い至るとなんだか可笑しさがこみあげてきて彼女は笑い出した。 (人間風情が・・・) とシンヤのコメカミに青筋がたったが彼はどうにかこらえる。 そうして一通り笑ったあと、ソシエはいくらかの条件と共に食料を分けてあげる気になったのだが、ちょっとした思い付きと悪戯心が頭をもたげた。 衝動に突き動かされるままソシエはあまり深く考えずにいつかどこかで聞いたことがあるような台詞を口に出す。 「パンがないならお菓子を食べればいいじゃない」 その瞬間、頭の中でぷつんと何かが切れる音がして 「人間・・・ふざけるなあああぁぁぁぁぁ!!」 雄叫びと共に弱った体でシンヤはドスハードに飛びかかった。 反射的にソシエは宙に浮かべていた足を地面に踏みこむ。最初から視界いっぱいに広がっていたドスハードの足が音をたててシンヤを踏み潰した。 そのとっさのスムーズな操作はここ数時間の訓練の賜物にちがいなかったがシンヤが弱っていたからこそ捉えられたことは間違いないだろう。 ついやってしまったこととはいえさすがにやりすぎたと感じたソシエは恐る恐る足をどけてシンヤの状態を確認する。 地面にめり込んではいるものの潰れては・・・いない。つまみあげて見る。どうやら生きているようだ。ほっと安堵がため息になって出ていった。 その瞬間、市街地に撃ち込まれた艦砲射撃の轟音が響きわたる。 とっさに周囲を確認したソシエは市街地の一部が土煙をあげているのを見つける。 どういった経緯かは知らないが戦闘がおこなわれているらしい。 襲われている人がいるのならホワイトドールで助けねばならないと思い、ソシエはドスハードを急発進させた。テッカマンをその手にぶら下げたまま・・・。 【ソシエ・ハイム 搭乗機体:機鋼戦士ドスハード(戦国魔神ゴーショーグン) パイロット状況:良好(機体がガンダム系だと勘違いしています) 機体状況:良好(AIは取り外され、コクピットが設置されています) 現在位置:D-7市街地周辺 第一行動方針:D-7市街地の戦闘を止める 第二行動方針:条件付でシンヤに食料を分ける 第三行動方針:仲間を集める 最終行動方針:主催者を倒す】 【相羽 シンヤ(テッカマンエビル) 搭乗機体:無し パイロット状況:テッカマン形態、PSYボルテッカ使用により疲労、無茶苦茶空腹 気絶中、ドスハードにつままれている 機体状況:機体なし 現在位置:D-7市街地周辺 第一行動方針:食料の確保 第二行動方針:機体の確保 第三行動方針:他の参加者を全滅させる 最終行動方針:元の世界に帰る 備考:テックシステムの使用はカロリーを大量に消費】 【初日 16 15】 BACK NEXT 護るべきもの 投下順 アンチボディー ―半機半生の機体― 引き合う風 時系列順 護るべきもの BACK 登場キャラ NEXT ホワイトドール ソシエ それぞれの立場 それぞれの道 死活問題 シンヤ それぞれの立場 それぞれの道
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/301.html
白刃演武 ◆7vhi1CrLM6 殺し合いの為にあつらえられた会場、その南東の端H-8の小島で一つの機体が落ち込んでいた。 膝を屈し手を付くそのさまは分かりやすく説明するとちょうど『orz』こんな感じである。 モビルトレースシステムを採用しているその機体にとって機体の姿勢は搭乗者の姿勢を現す。 つまり獲物を逃したギム=ギンガナムは、くどいようだが今現在まさしく『orz』な感じであった。 そのような玩具を取り上げられた子供のような状態のギンガナムであったが、レーダーに光点が灯るや否や跳ね起き、目を純真無垢な子供のように輝かせる。 テンションが急上昇していくその様は例えるならば『遠足の朝の子供』といったところか。 そして、はやる心を抑えきれないかの如く上空の機体に通信を繋げた。 「我が名はギム=ギンガナム、一つ手合わせ願おうか」 剥き出しのある意味純真な敵意を向け、大きく飛び上がり航路に侵入。挑むように腰からビームソードを引き抜き構えた。 「名乗られたからには答えよう。私の名はレオナルド=メディル=ブンドル。だがあいにく君に構っている暇は持ち合わせてはいない。悪いが押し通らせていただく」 高速で迫る影が人型に転じ、西洋風の剣を抜き放つ。 振りあげられた刃が煌き、高速で叩きつけられた刃を受けて火花が舞う。百舌鳥の鳴き声のような音が散った。 剣と刀の鍔迫り合い。最大戦速で突撃してきた強烈な一撃を受けて機体は南へ南へと強く押し流されていく。 「クク……」 笑いが込み上げてくる。躊躇のない踏み込み、太刀筋の鋭さ、撃ちこみの激しさ、どれ一つをとっても並の兵ではない。 ――愉快だ。心の底から愉快だ。 シャイニングのブースターが唸りを上げる。出力が上昇していく。 荒獅子の如く展開される冷却装置。さらに出力があがり、二機の南下が止まった。 せめぎ合い。互いのブースターの起こす燐光が闇夜に青白く浮かび上がる。 増大していく出力。あおりを受けた湖面が飛沫をあげすり鉢状にへこんでいく。 唐突にサイバスターの腕が動きを変え受け流された。支えを失った体が崩れ、凄まじい勢いで前に流れる。 減速し体勢を整えようとした瞬間、背中にヒヤリとしたものを感じて逆に加速した。 切っ先が装甲に触れてガリガリと耳障りな音を立て、肌の薄皮一枚切られたような僅かな痛みが走った。 「ハハハハハ!! それでいい。もっと貴様の力を見せてみろ」 息に乱れはない。 僅か数合の立ち合いで理解したのは敵機の異常なまでの柔軟性。その動きは起動兵器の基本フレーム、及び操縦性に制限されたものとは異なる。 普通ではほとんど獲得できないような人体の動きを手に入れている。同時に微細な再現する必要のない動き――ちょっとした癖やしぐさのようなものまで表現しきっている。 そこから導き出されるのは、体の動きをそのままトレースするシステム、もしくは脳波から直接信号を受信し体を動かす感覚で機体を制御するシステムが使われているということ。 とすれば、これは生身の人間と立ち会っていると考えたほうがしっくりとくる。 切っ先が動き、頭を狙って放たれた一太刀を難なく受け止める。 巨細漏らさず搭乗者の動きを再現する機体。呼吸の動きまで見てとれるそれを相手に拍子を読むことなど実に他安い。 相手の技量が低いわけではないが、剣の腕に格段の差があった。 だが、一撃が予想外に重い。相手を遙かに上回る大きさのサイバスターが力に押され徐々に沈んでいく。 耐えかねて刃を反らして受け流し、ぱっと退いた。退き際に籠手を打つ早業。だが浅い。 一つ大きく長く息を継ぎ、心を落ち着ける。 『剣術に許さぬ所三つあり、一は向うの起こり頭――』 判明したことが一つ。正眼から太刀を振り上げ振り下ろすときにわずかに体が開くということ。 ――先を抑え、そこを狙う。 ギンガナムの切っ先が動き跳ね上がる。 振りかぶった白刃が振り下ろされるその懐に一陣の風の如く踏み込む。 その踏み込みはまさに一刀一足、いささかの猜疑心も持ち合わせていない突き。 伝わってくるのは敵の装甲を貫く感触、耳にするのは金属のこすれあう音。 ――しくじった。 深々と突き刺した刃は狙った胸部の僅かに左、貫いたのは右肩。慣れない機体と直感的に動かせる機体、その差が現れた結果である。 抉るように動かし刃の向きを変え切っ先に力を込める。 『二は向うの受け留めたる所――』 耳に獣のような咆哮が届き、重い衝撃が伝わり、装甲が悲鳴をあげる。肩で弾かれ体が崩れる。 透かさずに繰り出された太刀が迫ってくる。ブースターを最大稼働。身をさがらせることによって回避を試みる。 ギンガナムが踏み込み。腕の腱が伸びる。 『三は向うの尽きたる所なり、この三つはいずれも遁すべからず』 そして、腱が伸び切る。踏み込みもこれ以上は体を損ね意味はない。ビームソードの出力も想定済み。 それを統べて見極め再度踏み込み、攻勢に転じようとして目を疑った。 ――馬鹿な! 切っ先が伸び、差し迫ってくる。あり得ることではなかった。 「ハハハハハハハ、見事だ。貴様を我が敵と認めよう。最大の敬意を払い、全力を尽くし、その首をいただく」 中ほどまで刀身が突き刺さる。コックピットの桃色の粒子が差し込まれ、まるでオーブンの中に閉じ込められているかのような高温に晒される。 咄嗟に相手の太刀を跳ね上げ蒸発は免れたが、焼け焦げた肉の匂いがコックピットに充満し吐き気を覚えた。焼き蒸された体から汗がとめどなく流れ、視界が霞む。 その視界でブンドルは確認した相手の刀身は伸びていた。いや、輝く左手に握られたそれは刀というには余りに粗暴な姿に変わっている――実に美しくない。 「どうした? 先を急いでいるのではなかったのかな?」 厭味の利いた上から人を圧するような物言い――実に美しくない。 しかし、その純粋に戦いを欲する精神。求道者のそれに近いその心だけは美しいと評価しよう。 だが、いかに洗練され完結した美しさもった芸術品でも場を違え、調和を乱せばその美しさを損ねる。 目の前の男はまさにそれであった。この場にこの男は危険すぎる。 「君の如き危険人物を野放しておくわけにもゆくまい」 かくして二機は再び相対し、互いの存在を賭けてぶつかりあう。 【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状態:テンション上昇中(気力130) 機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、右肩に穴、全身に軽度の損傷 現在位置:H-8 第一行動方針:ブンドルを倒す 第二行動方針:倒すに値する武人を探す 第三行動方針:アイビス=ブレンを探し出して再戦する 最終行動方針:ゲームに優勝 備考:ジョシュアの名前をアイビス=ブレンだと思い込んでいる】 【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL) パイロット状態:火傷、主催者に対する怒り 機体状態:コックピットに周辺に損傷、ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能 現在位置:H-8 第一行動方針:ギンガナムを倒す 第二行動方針:A-1に向かい、技術者をはじめとする一般人を保護する 第三行動方針:基地の確保のち首輪の解除 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ】 【初日20 40】 本編112話 失われた刻を求めて
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/134.html
とある竜の恋の歌 ◆C0vluWr0so D-8市街地。二エリアに渡って広がるあまりにも巨大な街並みはひっそりと静まりかえっている。 そこに住人の影は無く、本来なら煌々と夜の街を照らすはずの街灯も暗黙を保ったまま。 閑散とした街の更に外れにある、自然の姿を人工的に残した野外公園に巨人の影が一つ。 巨人の足下には依頼主を亡くしたネゴシエイターが一人。 ネゴシエイターの足下には物言わぬ骸が一つ。 その側には、巨人――騎士鳳牙によって掘られた穴が一つ。 ネゴシエイター、ロジャー・スミスは今は亡き依頼主、リリーナ・ドーリアンの亡骸を前に立ちつくしていた。 彼女を埋葬すべく、自らの怪我の処置もほどほどに鳳牙を走らせたロジャー。 彼の胸中にあるものは悔い。自分の至らなさのせいで依頼主をむざむざと死なせてしまったことに対する後悔の念。 もしも自分が最初の接触の時点でテッカマンエビルを名乗る男を倒せていれば―― もしも自分が即座にテッカマンエビルとリリーナ嬢を発見し、少女を救出出来ていれば―― いくら悔やんでも悔やみきれない気持ちはいくらでも募ってきた。 しかし、それで歩みを止めるわけにはいかないということも重々承知している。 「リリーナ嬢。貴女の遺志はこのロジャー・スミスが引き継ごう」 一張羅が血で濡れることも気にせず、ロジャーは少女の骸を抱き上げる。 あれほどまでに凛々しい目を持ち、気高き矜持を最後まで貫いた女性をこのままの姿で晒すことはロジャーのプライドが許さなかった。 リリーナの遺体を抱き上げた瞬間、骨折の激痛がロジャーの脇腹に走る。 本来ならば即座に治療をし、安静を保たなければいけないような重傷の身。 それでもネゴシエイターは揺るがず、堂々と胸を張り少女を抱きかかえる。 「なに――気にすることはない。依頼主死すとも依頼は死なず。ネゴシエイター、ロジャー・スミスのささやかな矜持だ」 鳳牙によって穿たれた墓穴へとリリーナの骸を丁寧に下ろしたロジャーは、少女の首にはめられた首輪をそっと抜き取った。 今現在、ロジャー達反主催を掲げる者にとって一番のネックは各々の首に巻かれた首輪だ。 この首輪が殺傷能力を持ち、あの化け物の思い通りにその効果を発揮するというのは明らかだった。 ロジャーは思い出す。 胸糞が悪くなるほどに素敵なこのゲームの参加者、その全てが集められた最初の部屋の光景を。あそこで行われた凄惨な殺戮を。 自分たちがこのままあの化け物に挑もうとも、あの悪趣味なショーと同じ光景が主催者に歯向かう無謀な反逆者の首の数だけ行われるだけだろう。 だが、この首輪さえ外せば条件はイーブンだ。 たとえあの人外の化け物が如何に強力な力を備えていようとも、お互いが対等な立場にさえ立ってしまえばいくらでもやりようはある。 そのためのネゴシエイション、そのためのネゴシエイターだ。 この首輪が主催者打倒の切り札になる――そう確信し、懐に収める。 「リリーナ嬢……。私は、貴女のような気高く美しい女性に出会えたことをとても嬉しく思う」 少女の言葉はネゴシエイターとしての誇りを思い出させてくれた。 夢物語ではあったが、少女の語る理想は夢を信じるに値するものだった。 リリーナとの出会いは、交わした言葉の一つ一つはロジャーの心に深く刻まれている。 最後に死者への祈りを捧げ、ロジャーは墓から背を向ける。 そのまま鳳牙へと乗り込むと、今度は少女の亡骸を埋め始めた。 「だからこそ――この殺し合いに乗った者は許せない。貴女の信念に反することになろうとも、交渉に値しない輩はこの拳をお見舞いしてやるのが私の主義でね」 リリーナの身体が土中に埋もれていく。 埋葬される少女の表情は、自分が死んだということさえ理解していないかのように穏やかだった。 おそらく痛みも何も感じることなく逝ったのだろう。それだけがせめてもの救いだと言うのは、死者に対してあまりにも失礼だろうか。 少女の埋葬を終え、ロジャーは墓標代わりに白石を置く。 「私は死者に縛られるわけにはいかない。君の説いた理想を叶えるためにも、そしてなにより生き残るためにだ。 君とはここでお別れだ。ロジャー・スミスはリリーナ・ドーリアンの遺志を引き継ごう。 だが君との繋がりはここに置いていく」 止まるわけにはいかない――そう決めた。 少女の死を思い返し、感傷に浸る暇は無い。そんな時間が有るのなら、その分一人でも多くの命を救い、前へ進み続けよう。 この無意味な争いを止めることが、完全平和主義を説いた少女への何よりの弔いなのだから。 これからの方針を考えながら、ロジャーは鳳牙を走らせる。 この傷の処置をすませた後、一度ユリカ嬢のところへ戻ろう。 彼女の乗る巨大な機体ならば、もしかするとこの首輪を解析する機材が備えられているかもしれない。 主催者に生殺与奪の権利を握られている以上、このままでは表立っての反抗は出来ない。 あのテッカマンとか名乗った男も、手応えはあった。 おそらく相応の痛手は負わせられたはずだ。なにより生身のままではそう遠くまではいけないはず。 ひとまずは仲間を集め、それぞれの身の安全の確保、そしてあの怪物を打ち倒すだけの戦力の充実を図ることが先決だ。 6時間の間に出た死者――それを殺した殺戮者たちも、徒党を組み、十分な戦力を揃えた集団には手を出せないだろう。 ある程度の方針が見えてきたとき、薬局の看板が目に入ってきた。 これは幸運と機体から降り、ロジャーは店内へと入っていく。 様々な薬の並ぶ商品棚を一つ一つ物色し、鎮痛薬や包帯、ギプスなど目当ての物を手に取ると、早速手当てを始める。 「しかし、これはまた派手にやられたな」 骨折数カ所に全身打撲、この場にあの無愛想な少女がいれば、 『ロジャー、あなたって本当に――』と小言の一つでも言うだろう、と想像しながら苦笑する。 そうだ、自分はあの世界へ再び帰らなければならない。 手早く怪我の処置を終えると、ネゴシエイターは立ち上がる。 目指すは巨竜、無敵戦艦ダイだ。 「さぁ行こうか騎士・鳳牙。この争い――終わらせるぞ!」 ◇ ミスマル・ユリカは無敵戦艦ダイの中、一人ぽつりと座っていた。 少女の顔には疲労の色が浮かび、どこか落ち着かない様子をしている。 はぁ、とため息を一つつくと、操縦席に深く腰をかけ直す。 「ガイさん……大丈夫、なのかな……?」 少女が気にかけるのは、ここに来て初めて出会ったはずの――でも、何故か昔から知っているような気がする仲間。 ガイと――そう名乗った彼は、ユリカが知る一人の少年とは、全然違う。 それでいて、とても似ている。 「アキト……」 思わず口に出てしまう想い人の名前。 「アキト……うん。あたしは、大丈夫。絶対あなたのところに帰るから……だから、少しだけ待っててね」 胸の奥底から湧き出る確かな想いを噛みしめながら、ユリカはより強く願う。 この殺し合いからの生還と、愛する人との再会を。 その時少女はこちらに接近してくる機影に気づく。 敵襲かと身構えたが……違った。それは別れた仲間の機体だった。 既にその四肢は失く――しかしそれでもユリカを守った仲間。 尋ねたいことはあった。でも。 なんとなくだが――それは、聞いてはいけないことのような気がした。 だからその代わりに、たった一言だけ告げる。 「お帰りなさい……ガイさん」 「……ああ、……ただいま、ユリカ」 四肢をもがれたバルキリーはダイの元へと帰還する。 過去を捨てた男は過去の少女と再会し、幸せな未来を夢見る少女は未来の想い人と出会う。 それは本来有り得ない邂逅。 だからこれは――このバトルロワイアルの中で起きた、とても貴重な幸せの瞬間だった。 ◇ ユリカとアキトの再会から遅れること数分。 ユリカを目指して北上していたネゴシエイター、ロジャー・スミスもまた、二人との合流を果たしていた。 三人は別れてからこれまでの経緯とこれからの方針について話し合う。 もちろん三人とも最終目標は主催者を倒し、生きてこの空間から脱出、元の世界に帰ること。 しかし、ロジャーがテッカマンエビルとの戦闘について話し始めたとき、ユリカが小さな悲鳴を上げる。 「ロ、ロジャーさんっ! それ本当ですか!? な、ならあたしは……。 ど、どどどどうしよう!? 早く助けに……いや、その前に……!」 「ユリカ嬢、どうしたんだ!? まず落ち着いて、それからゆっくり話してくれ」 「ユリカ、大丈夫だ。落ち着いてくれ。……俺たちがいない間に、何かあったのか?」 二人からなだめられ、冷静さを幾分か取り戻したユリカは一刻たりとも無駄に出来ないとばかりに早口にまくしたてた。 「あたし、やっちゃいけないことをしてしまったんです。今からこの三機で周辺の探索を開始します! 要救助者を発見したらダイのところへ連れてきてください! それでは各機散開!」 当然ながらさっぱり話の要点がつかめない。 困惑した表情を浮かべながらロジャーがユリカを問いつめる。 「ちょっと待ってくれ、私たちにも何があったか詳しく話してくれないか? そんなことを言われて、はいそうですかというわけにもいかないだろう」 「人の命がかかってるんです! おいおい通信で話しますから、それまで我慢してください。 多分……生身のまま、倒れている人がいるはずです。その人を捜してください!」 「だからユリカ嬢、それでは分から――」 「把握した。探索に移ろう。」 納得できないと憮然とした表情を浮かべるロジャーに対し、アキトはさっさと探索を開始。 黙々と作業を始めるアキトの姿に、ロジャーも渋々ながら探索を開始した。 ロジャーの胸中はあまり平穏とも言えなかったが……この後のユリカの告白は、そんなモヤモヤなど一瞬で吹き飛ばすほどのものだった。 「何だって!? それではつまり……ユリカ君は」 「……はい。あたしは……ただ生身で歩いていただけの人を、撃ってしまいました。 だから! 少しでも早く助けないといけないんです!」 「そうか……。それでさっきはあんなに慌ててたのか。 よし分かった。私も本腰を入れて捜索に当たろう。この周辺にいるのかい?」 「はい。あたしが見たのは……ええと、そこのビルの影の辺りでした。 もし爆撃に巻き込まれたなら……まだ近くに、いるはずです」 そこまで言うと、ユリカは大きく息を吐いた。 アキトがモニター越しにユリカの様子を窺うと、青ざめた顔をして機体を操縦している。 明らかに疲れを押して捜索活動に力を注いでいるユリカに、アキトは休憩するように促したが―― 「ダメです! 人の命がかかってるんですよ。あたしだけのうのうと休むなんて出来ません」 「……だが、このまま作業をさせるわけにもいかない。捜索は俺たちに任せて君は休んでおけ」 「……ガイさん、あたしだって生半可な気持ちで言ってるんじゃありません。 一人より二人、二人より三人で探した方が結果も良いに決まってます」 「それで大事なときに動けなくなったらどうするつもりだ? 何時敵襲があるかも分からない。 君は艦長をしていたと言っていたが……それだって多くの人員がいたからこそだろう。 君一人で出来ることには限りがある。今は休んで今後に備えるのが君の仕事だ」 「――! そんな言い方無いじゃないですか! あたしはあたしなりに考えて――」 「分かった分かった。二人ともそこまでにしておきたまえ。 ほらユリカ嬢、そんな表情をしていてはせっかくの綺麗な顔が台無しだ。 君が疲れてるのは誰が見ても明白だよ。ここはガイ君の言うとおり私たちに任せてもらおうか。 その代わり、君には一つ頼まれごとをしてもらいたい」 ユリカとアキト、険悪な雰囲気になりつつある二人の会話に割って入ってきたのは、ロジャーの提案だった。 「ここに首輪が一つある。……リリーナ嬢の首に巻かれていた物だ。これを君に託そう。 見たところ、ダイは戦艦というよりもむしろ移動基地としての側面の方が強いようだ。 ならば機体の整備、ひいては開発のための設備を内蔵している可能性が高い。 後は――分かるね?」 ロジャーの提案に頬を膨らましながらもユリカは了承。 「……はい。私にどこまで出来るかは分かりませんが……やれるだけのことはやってみます」 ロジャーはユリカへと首輪を渡す。その後、早速ロジャーとアキトが市街の探索を始めたのだが―― 「どうだガイ君? その脚部はまだ使用可能かね?」 「いや……どうやら爆撃の直撃を受けたようだ。修理するより新しく造り直したほうが早い、といった状態だな」 「そうか……こちらにあった機体も使えそうにない。どうやら収穫は殆ど無いとみてよさそうだ」 ダイの爆撃を受けた市街地のダメージは予想以上のものであり、YF-21の脚部やドスハード(これは元々運用不可だったが)など、戦力面の補充は期待出来そうになかった。 生存者の発見も絶望的かと思われたその時、ロジャーが地中へと繋がる穴を発見。 どうやら地下通路の類らしい。もしもこの穴ぐらの中へ入り込み、爆撃を避けることが出来たならば。 「たとえ生身でも生きている可能性はある――ということか」 「そういうことになるね。しかも――この通路、機動兵器が通った後がある。もしかするとその機体の持ち主に保護されたのかもしれない」 「その可能性もあるな。それで、どうするつもりだ? この奥へと探索範囲を広げるのか?」 「そうしたいところだが、この通路は少々狭すぎる。 私の鳳牙ではどう見ても通れそうにないし、ガイ君の機体でも難しいだろうな。せめて脚部が無事ならまだやりようもあったろうが、この狭い穴ぐらの中を戦闘機が飛ぶというのもナンセンスな話だろう」 「するとこの通路の探索は諦めると?」 「おっと、そうは言っていないよ。確かに機体のままならば通れない――だが、この身一つで飛び込むには十分な広さだ。機体から降り、私が調べてこよう。 なに、心配することは無い。この周辺と機動兵器の痕跡を確認する程度に留めるつもりだ。 それと……彼女を一人には出来ない。君はここへ残って周辺の警戒を頼む」 「……了解した。ユリカ聞こえたか? 今から俺がそちらへ戻る。ロジャーはこのまま地下通路の探索を続行だ」 ユリカから了解の返事が届くと、ロジャーはアキトへのプライベート回線に切り替えた。 「……ガイ君。私が言うのもなんだが、君がユリカ嬢に会ったのはここに来てからではないな? 君はユリカ嬢とは同じ世界の人間で……しかもかなり親しい間柄と見た。彼女は君の素性を知らないのかい?」 「……俺はユリカとはここで初めて出会った」 「いーや、嘘だね。これでも私はネゴシエイターだ。下手な嘘で騙そうとしても無駄だよ」 「……貴様には関係ない。これは……俺だけの問題だ」 「……そうか。なに、そう言うのなら無理に聞く気はない。少なくとも私よりは君のほうが彼女のなだめ役に向いていると分かっただけでも十分だよ……っと」 やれやれ、一方的に切られてしまったか……と、ロジャーは無愛想な仲間の行いに苦笑した。 (確かに彼ら――というより彼個人か? 深い問題があるようだ。それがこれから先、悪い方向に転がらなければ良いが……) 「しかしこのような問題は他人が立ち入ったところで良くなるようなものでもない――先ほどは少しばかり余計な口出しだったかな?」 と、ネゴシエイターは自分の言動を省みる。 一呼吸置いた後、ロジャーは鳳牙から降り、地下通路の探索を開始した。 ◇ 首輪を託されたはいいが、機器の扱いに関しては素人であるユリカがどうこう出来る物ではなく。 ラボに置かれていた研究器具も、彼女の世界とは違う科学体系に因るものだったこともあり、下手に触れば爆発する可能性を秘めている首輪の解析は、挑戦さえも出来なかった。 ダイの操艦部へと戻り、首輪の表面をなでる。あまり心地よい感触では無い。 半分機械、半分生き物、とでも言えばいいのかは分からないが、とにかく冷たい無機質な感触も、温かみのある生き物のそれとも違う不思議な感触は、ユリカが初めて見る物質によるものだった。 紅い宝石のようなものが埋め込まれ、一見装飾品のように見えないこともない。 だが、ぴったりと首に吸い付くように巻かれている首輪には、それをつけるとき必ず必要なはずの繋ぎ目が見あたらない。 「不思議だなぁ……。どうやってつけたんだろ? やっぱりこのナマモノっぽいところが伸縮したりしちゃうのかな?」 ユリカの疑問も募るばかり。 と、それまで聞き流していた通信から自分の名前が聞こえてきた。 「……ユリカ聞こえたか? 今から俺がそちらへ戻る。ロジャーはこのまま地下通路の探索を続行だ」 「えっ、あっ、はい。ロジャーさんは地下通路、ガイさんがこちらに戻るですね。了解しました」 地下通路についてなど把握出来てないこともあったが、とりあえずは了解の返事を送る。 モニターにはこちらへと飛んでくるガイ機の姿が映っていた。 ◆ 「えっと……ガイさん、その……先ほどはあたしも少し取り乱していたというか……」 探索から戻ってきたアキトとの沈黙の時間……それに耐えられなくなったユリカの口から出たのは、先ほどの無礼に対する謝罪の言葉だった。 「……いや、気にすることはない。さっきは俺も少々感情的になりすぎた」 それに対するアキトの返答も、思いはユリカのそれと同じ。 「……はい! でも、やっぱりこういうのは言っておかなきゃいけませんよね。 改めて……すいませんでした、ガイさん。あたしも……二人がいない間に、考えたんです。 ああ、ガイさんの言う通りかもしれない……って。 あたしが艦長をしてた艦……ナデシコって言うんですけど、――――って感じで」 だいぶ普段の調子を取り戻しつつあるユリカに安心し、アキトも会話を続ける。 「いつもの調子に戻ってきてるみたいだな。安心したよ」 「あ……」 「どうしたんだ?」 「いえ、その……ガイさんって、あたしの大切な人に……似てるんです。 なんでかなー? 口調や雰囲気なんかは全然違うんですけど……。時折見せてくれる優しさ? みたいなのが」 「それは光栄だな。その彼について……少し話してくれないか?」 「えっ、いいんですか? えっとぉ……、彼、アキトっていうんです。 小さいときからの運命の恋人っていうか……。アキトはかっこよくて優しくて…… たまーに優柔不断なところもあるんですけど、それも彼の優しさだろうし…… 何より、あたしのこと……大切にしてくれるんです。それが……一番好きなとこかな?」 アキトはフ、と微笑むとユリカに対して問いかける。 「一つだけ聞こう。君は今……幸せかい?」 その問いに込められた思いに気づくことなくユリカは即答する。 「はい! あたしは……とっても幸せです!」 その返事を聞いてアキトはどこか悲しげに、しかしユリカの幸せを祝福し、軽く頷いた。 「そうか……きっと、そのアキトって奴も……幸せだと思うよ」 「はい、アキトもあたしも幸せです! だって二人は愛し合ってるんだから! ……って、なんだかあたしのおのろけ話になっちゃってるような……」 「フフ……確かにそうだな」 忘れていた幸せの瞬間――アキトは今まで失ってしまっていた感情と、それにすぐに順応してしまった自分に驚いていた。 あの頃の自分はこうして笑っていたなと、もう思い出の中にしか存在しない自分の姿を思い出す。 このままユリカとずっと二人で……ふとそんな考えが頭に浮かんだとき。 それは叶わない夢だということをアキトは知る。 「ガイさんにはいないんですか? 大切な……人」 たとえ今会話をしている相手があの頃のユリカだったとしても。 変わらぬ笑顔がこちらに向けられていたとしても。 自分は変わってしまった。 今の自分はユリカの愛したテンカワ・アキトではない。 過去を捨てた……復讐鬼なのだ。 「ああ、……いたよ」 「あっ、やっぱり! ガイさんって一見無愛想だけど実は優しいですもんね。女の子なら放っておきませんよぉ!」 「いた。だが……もういない」 「……! す、すいません……あたし……」 「君が謝ることはない。……少し周辺を見てこよう。ロジャーの話ではまだ近くにテッカマンと名乗る好戦的人物が潜伏しているらしい。 君はその間に休んでおくといい。何かあったらすぐ連絡するように……分かったね?」 「……はい、分かりました。……ガイさん、最後に一つだけ……聞いてもいいですか?」 「……なんだ?」 「あなたは……」 あなたは……。そこから先の言葉が続かない。聞きたいことは、言いたいことは頭の中ではしっかりと文章を作っている。 『あなたは……アキトなの?』 たったそれだけの言葉が言えない。 たった五文字。でもそれを言うことは他の言葉を百述べることよりも、千紡ぐことよりも難しかった。 言葉が続かない。 ユリカの口唇は半端に開かれたまま何の音も発することは出来なかった。 「……いえ、何でもありません。気をつけて行って来てください」 「……ああ」 バルキリーは夜空を切り裂き羽ばたいていった。 ユリカは思う。 自分が聞けないのは……もしかしたら心の奥底でそれを認めているからではないかと。 今までアキトのことを誰よりも見てきた自分だからこそ分かる。 やっぱりガイさんは……アキトだ。 何であんな格好をしているのか分からない。ユリカの知るアキトとは雰囲気だって全く違う。 それでも自分の全感覚は彼がアキトなんだと言っていた。 「今度ガイさんが帰ってきたら……その時こそ絶対聞こう」 少女はそう決心するとずっと張りつめていた緊張の糸をほぐす。 思えば夕方戦闘になってからずっと緊張しっ放しだ。 んー、と背伸びをしてから、どっかりと椅子に座り込む。 深く椅子にもたれながらユリカはじわじわと迫ってくる睡魔の存在に気がついた。 あっ、ダメ……今寝ちゃったら……でも……ちょっとくらいなら……。 気づけば少女はすうすうと寝息をたてはじめていた。 「……ユリカ君? 聞こえているか?」 探索を終えたロジャーからの通信も、眠れる少女の耳には届かない。 ロジャーが行った探索の結果は、決して芳しいものではなかった。 生身での移動ということもあり、探索範囲が酷く狭かったことも原因の一つ。 例の機動兵器の移動跡についても、地下通路を通れるサイズの機体であることくらいしか分からなかった。 ……いや、もう一つある。 地下通路の中には、人為的に押し広げられちょうど人が通れるようなサイズの亀裂があり、そこには金色の装甲片が付着していた。 おそらくはその機動兵器が亀裂を広げた時に剥がれた物だろうが……金色をパーソナルカラーとするパイロットなど存在するのだろうか? その機体の持ち主はよっぽど派手好きだったのだろう。 「よほどのセンスの持ち主と見える。一度お会いしてみたいものだ」 と、黒で全身を覆うネゴシエイターは肩をすくめる。もしこの場にあの少女がいたならば、 『ロジャー、貴方のセンスもよっぽどだわ』などと言ってくれたろうに。 「しかしガイ君といいユリカ君といい、どうしてこう協調性に欠ける人間ばかり揃っているのか……まさかそれがこの場に呼ばれた理由ではあるまいが」 と、いまいち歩調の合わない仲間に対してロジャーは苦笑する。 思えばこの馬鹿げた殺し合いが始まってから既に半日が過ぎようとしている。 その間出会った者たちはどれもこれも一筋縄ではいかないくせ者ぞろい。 しかし不思議なのはその殆どが戦闘技術に長けた者であるということ。 (これはなぜだ? あの怪物はなぜ私たちを選んだ?) 相手の目的を知り、それに見合った行動をとることがネゴシエイトの鉄則である。 この首輪を解除し対等な立場に立ったとき、肝心のネゴシエイトに失敗しては元も子もない。 怪物の情報――それもまた必要だった。 「為すべきことは多い。まったく先が思いやられるね」 まぁ今は――何処かへ行った王子の代わりに眠り姫のお供というのも悪くはないな、と鳳牙はダイに寄り添うようにその身を座らせた。 ◇ 夜闇に紛れ、ダイの動向を見張る機体が一つ。黒と赤のカラーリングが施されたそれは、獲物を見つけ、喜びに奮えていた。 「そうか……。アレがお前を堕落させているモノかい?」 ククク、とガウルンは嗤う。その目は燦々と輝き、唇は醜く歪んでいる。 まるで子供が念願のおもちゃを買ってもらったかのような喜びの顔を見せ舌なめずりをする格好は、彼の愛する軍曹に言わせれば三流の為すこと。 確かにガウルンは兵士としては三流と評されるかもしれない。だが、それはあくまで"兵士"としてだ。 こと戦闘だけに限定して言えばガウルンは超がつくほどの一流なのは間違いない。 そして超一流の戦闘狂が駆るのは、超一流の武闘家、東方不敗マスターアジアの愛機であるマスターガンダム。 俊敏なその動きなら、鈍重なトカゲの一匹、即座に喰うことが出来るだろう。 「フフフ……さぁて、楽しいパーティの始まりはもうすぐだ。楽しみだねぇ……実に楽しみだ」 まだダイに手は出さない。アレを壊すのは――アイツが帰ってきてからだ。 自分と同類のあの男は、目の前でアレを壊された時どんな顔をするだろう? 決まっている。 この上なく上等な憎しみの目をこちらに向け、火がつくような憎悪を滾らせ――アイツはきっと、自分を殺しに来るだろう。 ……と、いけないいけない。と、九竜は愛しいカシムの顔を思い浮かべ、逸る気持ちを抑える。 「焦るなよ、ガウルン。お楽しみはこれからだ。あの男を徹底的に壊すチャンス――それを待て。 何、それはそう遠くない。腹を空かせてメシを待てば、いつもより美味しく頂ける理屈だぜ。 ……まぁ、あれだけ旨そうな獲物だ。すぐに頂くのも悪くはねぇなぁ」 ククク……、と狂人は再度嗤う。 【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童) パイロット状態:体力消耗、肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能) 側面モニターにヒビ、EN90% 現在位置:D-7補給ポイント 第一行動方針:アキトの帰還を待つ 第二行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉) 備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能 備考2:念のためハイパーデンドー電池二本(補給一回分)携帯 備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】 【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!) パイロット状態:浅い眠り、精神的にはやや不安定なまま 機体状態:大砲一門破損、左前足損傷、腹部装甲損壊 現在位置:D-7補給施設 第一行動方針:眠……あふ…… 第二行動方針:ガイに自分の疑問をぶつける 第三行動方針:ガイの顔を見たい 第四行動方針:首輪解除が出来る人間を探す 最終行動方針:ゲームからの脱出 備考1:YF-21のパイロットがアキトだと知りませんが、ある程度確信を持っています アキトの名前はガイだと思っていますが若干の疑問もあります 備考2:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)回収 備考3:首輪(リリーナ)を所持】 【テンカワ・アキト 登場機体:YF-21(マクロスプラス) パイロット状態:やや衰弱 機体状態:両手両足喪失、全身に損傷 現在位置:D-7西部 第一行動方針:市街地周辺の探索 第二行動方針:ユリカを護る(そのためには自分が犠牲になってもかまわない) 最終行動方針:ユリカを元の世界に帰す(そのためには手段は問わない)】 【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120 機体状況:全身に弾痕多数、胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積 DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備 現在位置:D-7 第一行動方針:アキトの目の前でダイを壊す 第二行動方針:近くにいる参加者を殺す 第三行動方針:アキトを殺す 第四行動方針:皆殺し 第五行動方針:できればクルツの首を取りたい 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】 【初日 22 00】 BACK NEXT 広がる波紋 投下順 失われた刻を求めて 広がる波紋 時系列順 爆熱! ゴッド晩ごはん!! BACK NEXT 例え死者は喜ばずとも ロジャー 鍵を握る者 噛合わない歯車 追う鬼、追われる鬼 ユリカ 鍵を握る者 噛合わない歯車 休息 アキト 鍵を握る者 噛合わない歯車 休息 ガウルン 鍵を握る者 噛合わない歯車
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/232.html
張り詰めすぎた少年 ◆7vhi1CrLM6 まだ土中の湿り気を帯びた暗い土。それがその存在を主張していた。 一人の少年が呆けたように座り込んでいる。 頭で理解はしていても心の片隅では否定していたのだろう。 それが確たる証拠によって崩れ去り、一時的に感情が麻痺している。 真正面から受け止めるには少年はまだ幼く、心は未成熟だったのだ。 その悲しげで、触れば崩れ去ってしまいそうなほど寂しげな背中からロジャー=スミスは目を移すと、ソシエの肩を軽く叩いて艦内への移動を促した。 『暫く一人にさせてください……』それが消え入りそうな声で言った彼の願いだった。 一度振り返る。 その背中はそのまま消え去ってしまいそうなほど弱々しく見えた。 ゆっくりと視線を逸らす。そして、彼もまた艦内へとその足を向けた。 ロジャー=スミスが歩く。 ――私は何をしていた。 ロジャー=スミスが一人歩く。 ――ロジャー=スミス。お前は何をしていた。 ロジャー=スミスが拳を握り締め一人歩く。 ――パラダイムシティが誇るMr.ネゴシエイターよ。お前は何をしていたッ!!! 無造作に打ちつけられた拳が音を立て、Jアークの艦内に乾いた音が反響する。 それは、大きく小さく返す漣のように響き合い、やがて姿を消した。 答えは簡単だ。何もしていない。 殺し合いを止める。 説得する。 依頼主を守り抜く。 ガイが戻るまでその代わりを務める。 その何一つとして成すことは出来なかった。 ――何がMr.ネゴシエイターだ……笑わせる。 ロジャー=スミスは自らを嘲笑った。余りの無力さに嘲笑わずにはいられなかった。 そのとき、風切り音が耳元に届き―― スッパ~ン!! 突然ハリセンで叩かれた。それも首から上がなくなったかと思うほどの勢いで、だ。 コメカミに青筋を薄っすらと立てながら、それでも自制心を働かせたロジャーは抗議する。 「ソシエ嬢、いきなり何をするのかね」 「一人で悩みこんでいるからよ」 しかし、その程度では全く意に介さないのが、ソシエ=ハイムである。 実にあっさりと言い切った。 「私は別に悩みこんでなど」 「いたわよ」 ぴしゃりと言い切られると同時に、その視線に圧される。 「ロジャー=スミス、あなたは何のためにここに来たわけ? 一人で悩みこむため? キラと口喧嘩するため? 違うでしょ」 言葉に詰まった。確かにその通りなのだ。 ここには交渉をしにきた。リリーナ嬢の代理人として、一介のネゴシエイターとしてだ。 にも関わらず話が反れた。キラに矛盾を突かれ意固地になった。 ただ感情に身を任せただけの行為。交渉とは言い難い。 風切り音が耳元に届き―― スッパ~ン!! 再びハリセンで叩かれた。鼓膜がジンジンする。 「何をする」 「だから、一人で悩むなって言っているでしょ」 「私は別に悩んでなど」 「いたわよ。考え事があるのならアタシに言いなさい」 そうやって胸を張って言い切るソシエの姿に、何処か滑稽さを覚えて言葉を返す。 「君にか?」 「そうよ。一人であれこれ悩むより皆で考えたほうが絶対いい考えが浮かぶんだから」 苦笑いが浮かんだ。 余りにも単純明快な理屈。それゆえにひどく分かりやすい。 「そうだな。では交渉を再開しよう」 そう言い、話を進めようとしたそのときにロジャーの目にある光景が飛び込んできた。 それは―― 「……何故そこでハリセンを振りかぶる」 ハリセンを大上段に振り上げて構えるソシエの姿だ。 「交渉って何なのさ」 「交渉は交渉だ。私にはリリーナ嬢に代わってこの殺し合いを平和的に解決する義務がある」 「だから私たちと交渉するの? あなた、間違ってるわよ。これからするのは話し合い。 交渉じゃないわ」 強い視線が突きつけられている。 『交渉』と『話し合い』。実に些細な違いだが、彼女にとっては大事なことなのだろう。 だがその理由が分からない。だからロジャー=スミスは曖昧にか返すことが出来なかった。 「しかし、私は――」 「しかしもだってもないでしょ!」 反論を展開しようとした言葉はソシエの声に掻き消された。 「いい、ロジャー=スミス? 交渉って別の集団が別の集団に持ちかけるモノよ。 でも私たちは違う。一つの集団。仲間でしょ? だったらこれは話し合いよ」 思わず噴き出した。 ようやくソシエがこうまで必死にわめき立てる理由が分かった。 彼女は気に食わないのだ。 一つのことを一緒にやろうとして話を持ちかけてきた。そのときに『交渉』などという他人行儀な言葉を使ってきたことが、だ。 彼女はこう言いたいのだ。 仲間なのだからもっと気軽に話せ、と。 「何よ。何で笑うのさ」 一人笑うロジャーに少女が拗ねたような視線を向ける。それにロジャーは笑いつつも返した。 「いや、すまない。なるほど、分かった。話し合いだ。話し合いをしよう」 そう言って襟を正す。二度のハリセンで乱れた髪に櫛を通す。 「トモロ、少し憎まれ役を買ってくる。戻ってくるまでにこれまでの行動と接触した者をまとめておいてくれ。 ソシエ嬢、出来れば話し合いは四人揃ってからだ。出来れば熱いコーヒーか何かを頼む」 そして言葉を言い残し、ロジャー=スミスは四人目の元へと歩き出した。 ◆ 調べが風に乗り流れてくる。 懐かしい調べ。 何度も聞いたことがある調べ。 そして、もう聴くことが出来ない最後の調べ。 そんな調べを一人聴いていた。 ただじっと彼女が眠るそこを見つめている。表情もなくただ一心に、だ。 風か吹き抜ける。歌がかき消され、湿った土の匂いが流れ飛ぶ。 「ロジャーさん、ラクスが死にました」 視線が掘り返された土から逸らされる事は決してない。 そのままの姿勢、そのままの表情、何一つ変えることなく少年は、静かに歩み寄ってくる男に声を掛けた。 「死んだ。死んでしまった」 歌はただ物悲しくひっそりと響き続けている。 だが死んだ。死んでいる。土を、墓を掘り返すまでもなく確信している。 何故だか分からないが、そこにもしかしたらという僅かな希望を挟む余地は存在しなかった。 目を閉じれば思い出す、あの桜色の髪を、明るい笑顔を。 不意に胸の内から何かが込み上げてきて叫んだ。 「ラクスが死んだんだ!!」 目元が熱い。堪えようと必死になって食いしばった歯が音を立てる。 その様子に背中越しで視線を注ぎ続けるロジャー=スミスは、そこで初めて静かに口を開いた。 「そうだ。彼女は死んだ。リリーナ嬢――私の依頼主も、ユリカ嬢も、だ。 ならば残された者たちは、その遺志を汲みとってやらねばならない」 思わずカッと熱くなり、気づいたときには掴みかからんばかりの剣幕で捲くし立てていた。 「分かっていますよ、そんなことはッ!! だから僕は決めたんだ! ラクスを生き返らせる道ではなく、あの化け物を倒す道を!!!」 「分かってないだろう、君はッ!!!」 一瞬、大気が震えたかと思うほどの強い声だった。反射的に黙り込む。 熱した熱が休息に冷めていく。目が泳ぎ、視線は隅へと追いやられる。 「分かって……いますよ」 「そこでそうやっていることが、君の言う分かっているということか? 彼女の遺志を汲みとるということか? 違うだろう? そんなことはありはしない」 追い詰められ、追い詰められ、張り詰めた糸が耐え切れなくなる。 「あなたはいいですよね。そうやっていつも冷静でいられて……。 ラクスが死んだことを知って、あの化け物を倒すと決めて、みんなを守ると誓って、僕は僕なりに精一杯やってきた。 でもその結果がこれです。やるべきことだと思ってやったことが間違っていて、同じ思いを持つ人を殺してしまった。 仲間に裏切られ、守るはずだった仲間も死なせてしまった。何が正しいのか分からない。自分のやっていることが合っているのかすら分からない。 もう頭の中がグチャグチャで……どうかなってしまいそうなんです」 口にしたのは弱音だった。放送後、誰にも見せる事のなく、また誰にも見せれなかった後ろ向きの姿だ。 こうしなければならない、こうあらねばならない、とそれまで必死になって作ってきた自分が壊れ、素の自分が顔を出したのだ。 その歳相応の、等身大の姿を確認してロジャー=スミスは気取られないようにホッと一息を吐く。 正直、この少年の気の張り詰め方には危うさを覚えていたのだ。 年齢以上に大人びて、背伸びというだけではとても足りない張り詰め方だった。 それは近くに頼れる大人が、感情的になれる相手が、弱音を受け止められるだけの存在がいなかったことに起因していたのだろう。 だから、その役を買って出たのだ。 「何も間違わない人間などいはしない。そんな者は人とは言えない。事実私も間違った。君達との争いを止めることさえ出来なかった。 人一人で出来ることなんて高が知れている。だから君はもっと人を頼っていいのだ。何でもかんでも自分一人でやろうとすることはない」 ロジャーが肩をポンポンと軽く叩き、優しく声をかける。そして、落ち着いたら戻ってくるようにと伝えて、その場を去って行く。 溜息と共に朝日の射し始めた空を見上げる。放送のときはもう直ぐそこまで迫っていた。 【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー) パイロット状態:脱力、ジョナサンへの不信 機体状態:ジェイダーへの変形は可能?各部に損傷多数、EN・弾薬共に70% 反応弾を所持。 現在位置:E-3ラクスの墓 第一行動方針:? 第二行動方針:このゲームに乗っていない人たちを集める 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】 備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。】 【ソシエ・ハイム 搭乗機体:無し パイロット状況:右足を骨折 機体状況:無し 現在位置:E-3 第一行動方針:ロジャー・キラ・トモロと話し合いを行なう 第二行動方針:新しい機体が欲しい 第三行動方針:仲間を集める 最終行動方針:主催者を倒す 備考:右足は応急手当済み】 【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童) パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能) 側面モニターにヒビ、EN70% 現在位置:E-3(凰牙はJアーク甲板) 第一行動方針:ソシエ・キラ・トモロと話し合いを行なう 第二行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉) 備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能 備考2:念のためハイパーデンドー電池四本(補給二回分)携帯 備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】 【二日目5:45】 BACK NEXT 夜明けの遠吠え 投下順 アキトとキョウスケ ヘヴンズゲート 時系列順 穴が空く BACK NEXT 何をもって力と成すのか キラ 二つの依頼 何をもって力と成すのか ソシエ 二つの依頼 何をもって力と成すのか ロジャー 二つの依頼
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/261.html
戦いの矢 ◆ZqUTZ8BqI6 「ガロード、どっちに行くんだ。近道はこっちだぞ」 「え? アムロさん、C-8に行くなら、ここから南にまっすぐ……」 「それは違うんだ。この空間は、壁を抜けると反対側に出られるようになっているんだ」 進み始めたガロードの言葉に割り込んでストレーガの指が北をさす。 そこには、白系の色を中心に、虹色の光を放つどこまでも続く壁があった。 アムロの言葉を聞いて、F-91は、急旋回。慌ててストレーガのそばまで戻ってくる。 「悪い悪い、アムロさん。俺、そんなこと知らなくて」 「いや、それも無理はないさ。俺も、逃げる時、咄嗟に光の壁に突っ込んだから知ってるんだ」 そう言ったあと、小さくアムロは歯噛みする。 過去に捕らわれていても仕方がない、と頭では割り切れるほど年は積み重ねているが、 感情まで抑えきれるほど、アムロも老成し冷めた人間になれているわけでもなかった。 あのときの戦いで、もう少し早く、あの獅子のマシンを撃破できたなら。 いや、戦力も少ないのに、行動する仲間を分割しなければ。 ……シャアは、死なずにすんでいたのかもしれない。 「何を、考えているんだ俺は……」 ストレーガの中で、アムロは一人小さくつぶやいた。 シャア・アズナブル。いけすかない部分もあったし、そりが合うはずもない男だった。 だが、不思議と自分たちは出会い、時代に翻弄されていった。 結局、自分が何をつかんだのか? ――それすらもわからないままだ。 あの男は、何かを見つけ、つかんだのだろうか。 もし、シャアが何かにたどり着いたとして…… それがあの愚行、アクシズ落としへとつながったとしたら、アムロはやはりシャアの行動を否定する。 あの男は、焦りすぎたんだ。だから、現実も見えちゃいなかったし、すぐに物事に見切りをつけた。 アムロは、シャアの行動を否定した。 だが、あの男を考えるに当たって、忘れてはいけないことがある。 「この暖かさをもった人間が、か」 シャアも、人の心の温かさを知っていたし、そのことをはっきりと認めていた。 そして、それを知った上での選択だったということ。シャアは、人のエゴと優しさを知った上で決断したのだ。 自分との決着にこだわり、過去を引きずりながらも同時に人を知り未来のために決起した男。 自分に、その勇気があるのか? いや、勇気と言うには少し違うかもしれない。 どうしようもないくらいすべてを理解して、他人を背負っていく気概、魂が自分にあるのか。 「ガロード……すこしいいか?」 光の壁を抜けて、おもむろに問いかける。 「どうやら、そのガンダムは俺たちの技術の延長にあるようだが……いつごろ作られたかわかるか?」 「うーん、ちょっと触っただけじゃ操縦法はわかっても、そこまではわかんないみたいだ。 ……そうだ、ちょっと待ってよ。色々試してみるから、さ」 いったん地上に降りるF-91を見て、アムロもゆっくり降下していく。 幸い、ここは市街地だ。高層ビル群の陰に隠れていればそうそう見つかることはない。 「そうだな、一応目的地には着いた。なにかあると聞き逃すかもしれない。放送まで聞き逃さないように移動を切り上げよう。 ……ガロード、さっき言った、最初のニュータイプの話を……少し聞かせてくれないか」 「ああ、いいよ」 軽く返事を返し、手を動かしながらガロードは説明してくれた。 酷く、哀しい人間の業そのものが詰まったような物語を。 ただ、アムロはぼんやりとそれを聴き続けた。ただ、ひたすらに聞く。 何か、理解できる気がして。 「―――で、言ったんだ。 『ニュータイプは人の革新でもなければ戦争の道具でもない、ただの人間だ。それは幻想だ』って」 「そう……か……」 アムロは、それだけ言うのが限界だった。 だが、作業をするため画面に集中していたガロードは、アムロの顔色に気付かず、さらに言う。 「お、調べたら結果が出たよ。 えーっと、宇宙世紀123年、バイオ・コンピュータを利用したニュータイプ仕様……」 そこまで読み上げた後、ガロードも怒りに顔をゆがませる。 アムロは、なぜガロードが怒っているのかよく理解できた。 なんてことはない。これは、ニュータイプを戦争の道具として使うモビルスーツでしかないのだ。 ……それも、あの人の光を見せた時から30年もたった、自分たちの未来の、だ。 人は、力でメンタリティを容易に変容させる。 それこそ、急に力を手に入れた反動で、一夜にして別人同然になることもある。 逆に、己を脅かす力をもつ存在の登場によって、周囲の人々のほうが変わっていくこともある。 一人の人間が持つ力が、すべての人間の心の在り方すら捻じ曲げる。 まさに、ニュータイプがそうだった。 驚異的な力を持つと畏怖されたこともあった。逆に人間の革新ともてはやされ、尊敬されたこともあった。 お互い、人間であることに変わりはないのに。 ニュータイプは幻想である。 アムロは、そのガロードの意見を、素直に受け入れる。 だが、哀しかった。あまりにも悲しすぎた。 よく似た並行世界でも、ニュータイプは戦争の道具として扱われ、血を流す原因となった。 あの日から、30年たった自分の世界でも、何も変わっていない。 これが、『人の業』とでも言うのか。 シャアは……シャア・アズナブルはこの絶望を知っていたのだろうか。 人は、決してメビウスの輪から抜け出すことはできず、あらゆる世界、あらゆる時間で罪を重ねるのだろうか。 「……そろそろ、放送だな。そちらに集中しよう」 ガロードに言っているのか、自分に言い聞かせているのかもはっきりしない心地だった。 そう言って、ディバックから、地図とメモ、ボールペンを引っ張り出す。 時刻は、18時間が経過し、朝の6時だった戦いの開始も、今では夜更けとなっている。 最初の6時間では、10人だった。 仮に、このペースで死者が増えているとすれば、単純計算時間が倍になっている以上、死者は20人。 いや、参加者が減れば減るほど、殺し合いは減速する。それを考えれば、16,7人。 もっと少ないことを祈って、アムロは鳴り始めた音楽に耳を傾ける。 しかし、その内容はアムロの予測を上回るものだった。 「なんだって……二十……一人だと?」 あの部屋には、50人弱しかいなかった。 最初の放送で、10人が死亡。6時間経過時の残りは40人と少し。 その40と少しの人数の中で……この12時間で、21がさらに脱落した。 つまり、6時間経過時の生存者の半分が死亡したことに他ならない。 アムロは確信する。人が減っても、殺し合いは減速していない。 むしろ、減った状態でありながら時間の単純比以上の人間が落ちたことを考えると、その加速度は猛烈な勢いで増している。 呼ばれた名にはギム・ギンガナムの名もあった。 危険人物も当然返り討ちその他で減っているだろうが、 それでも、この場は殺し合いにのった人間のほうが現在優勢であることは疑いようがない。 こんな理不尽に殺し合えと言われて、それでも最後に一人になるまで殺しあってしまう人間。 この世界は、多くの世界から人が集まっている。多種多様な世界の知恵をもってしても、人は食い合うことをやめられない。 シャアの名は、覚悟していた。だから、受け止めることはできた。 しかし、放送から流れたそれ以外の情報は、どれも顔を強くゆがませるのに十分なものだった。 唯一の救いは、自分たちの合流相手、クインシィやジョナサン、そしてブンドルの名が呼ばれなかったことだ。 もう、一刻の余裕もない。 可能な限り迅速に、こちらの戦力を落とすことなく、反抗勢力を集めなければ、勝機は完全に失われる。 「ガロード……合流を急ぐぞ。うかうかしてる暇はなさそうだ」 「ああ、わかったよ。……おっさんの分まで頑張らなきゃな」 おっさん、というのは話に聞いた神隼人だろう。 だれもが、苦痛を乗り越え、消えた人々を背負って生きている……とアムロは知っている。 この世界はそれが顕著なのだ。言うならば、ここは世界を凝縮し縮めた箱庭―― 「そうか……そういうことか、これがあの化け物の目的なのか……」 アムロは、直感的に気付いた。この世界の、意味を。 ストレーガのアイ・カメラで周囲の住宅街やオフィス内を急いで探索する。 ……人のつかった痕跡が、いっさい見当たらない。 それが、アムロの予感に、さらに確信を与えてくれる。 最初から、アムロが感じていたことがある。 違和感、とも言ってもいい。この世界には……あまりにも人の思念が感じられない。 無限に広がるような感覚を与えながら、雑念というか、ごちゃごちゃしたものがなさすぎるのだ。 だから、離れた場所でもニュータイプでも何でもないギンガナムの気配を手に取るように感じることができた。 冷静に考えると、意識もせず集中もせず遠く離れたニュータイプでもない人間の思念を、つぶさに知ることができるのはある意味異常だ。 この世界に、人はいない。いなかったという過去系ではない。過去未来現在、あらゆる時間で自然には、ここに人はいない。 いるのは、連れてこられた自分たちだけだ。 不純物の混ざらない、なにもない人間の世界のジオラマに、生贄を用意することで『世界』を再現する。 自分たちをひねりつぶすだけならたやすくやってのけるような存在が、そんなことをやる目的は何か? 言うまでもない、実験だ。 不純物を取り出し計測に無駄な幅が出ないようにするのも、 小さい事象の投影から全体を予測、理解するのも、 まさに実験そのもの。 ここは、実験用のフラスコの中なのだ。 だが、ここでもひとつだけ疑問が残る。 では、彼らはそれを計測することで、何を知ろうというのか……? 「それこそ……人の業なのかもしれない」 あの化け物が、神だとは認めない。 しかし、神のごとき力を持っていることだけは間違いない。 さっきも言ったが、力で心は容易に変わる。 ならば。 あれほどの力を持つ存在が、人間と同質の精神を持っているだろうか。人間の心を理解できるだろうか。 ――絶対にNO。 理解できないからこそ、こんな世界を作り上げ、観察することで人間を理解し、判断しているのだろう。 そして、観察から何をしようとしているのか……? 「認められるものか……!」 アムロは、あの化け物を認めない。どんな結論を出したとしても、決して認めない。 シャアは、人間の中で生き、人間として悩み、人間として業を背負い、人間の業を知って立ち上がった。 だが、あの化け物は違う。人を超越した世界で生き、人の心を知らず、悩まず、神の如く力を振りかざす。 人は、弱く脆く、愚かなのかもしれない。それは、人を超越した種から見ても明らかかもしれない。 けれど、どれもまた、すべて人間が背負い、乗り越えるものだ。 人間でない存在に、指図されるほど落ちぶれちゃいない。人は、それでも乗り越えられるんだ……! 「――シャア。お前が見たものはこれだったんだな」 アムロは知った。 シャアが見たものは、人間の未来という希望だったのだ。 どうしようもなく居間に絶望していながら、人間という種そのものの未来は、だれよりも信じていた。 自分も、同じだ。 決して、人間を見放したしたりはない。もし、そんな存在がいるなら、全力で戦うまでだ。 「ガロード。すまないが、マシンを交換してくれないか」 「急に、黙りこくったと思ったら……どうしちゃったんだよ、アムロさん」 「F-91がニュータイプ用のマシンだと言うのなら、俺が乗ったほうがいい。そのほうが、戦力になる。 ……もうシャアのような過ちは繰り返させない。俺はただの人間だ。だから、決して人間を見放したりはしない」 シャアを失った時のような、力不足からくる過ち。 シャアが起こしたような、人の業と絶望からくる争い。 そのどちらも、もう沢山だ。 ニュータイプは万能ではない。これからも、ただの人間である自分は失敗し、悩むだろう。 それでも……それでもだ。 必ず、人はいつか乗り越えると信じ続けよう。 そして、あの化け物を討ってみせる。 マシンの交換に、ガロードは、少し渋る様子を見せたが、結局変わってくれた。 彼曰く、「人を戦争の道具にするような、ニュータイプをパーツにするようなMSには乗せられない」らしいが、 アムロも、珍しく我を通した。アムロは知りたかった。自分たちの技術の果て、ガンダムはどうなったのか。 せめて兵器は、変わっていけたのか。 シートに座りこんだとたん、頭に流れ込む操縦方法。 はっきりと感じる、サイコフレームやバイオセンサーに近い感知器の存在。 自分の認識できる世界が、一回りも二回りも広がったような感覚を覚えた。 ざらつきに似た、会場を覆う思念。覆いかぶさるような参加者たちの嘆きと慟哭といった激情の数々。 「! 来る……!」 とたん、目を向いて虚空へ視線を投げやるアムロ。その急な動きを見て、ガロードが慌てた様子を見せた。 「な、何が一体来るって言うんだよ!?」 「かなり、大きな悪意が1つ……弱いが、明らかな敵意がもう一つ」 時計を確認すれば、もう24時30分だ。 「不味い、早く合流しよう」 そこまで言った時だった。 天空に駆け上がるように、光の線が流星のように空を切り裂いたのは。 ― ― ― ― 「おお? ハハッ、こりゃおもしれぇ」 C-1エリアの端で、黒いガンダムが、光の壁に体を突っ込んだり出したりして遊んでいる。 「しっかし面白い仕掛けだな。いまさら驚かねぇが、こんな便利なもん最初に教えとけよ」 放送なりなんなりで教える機会もあったのに、教えないとはあの譲ちゃんも人が悪い。 もっとも人じゃあないのかも知れねぇが……それはさておいて。 知っていればいろいろ楽しめたかもしれなかったってのに。 結果的にはいい感じなわけだが、やっぱりペナルティは必要だろう。 いや、やっぱり人じゃないからこそ、人間様の礼儀ってもんを教えてやる必要があるか? まあ、どっちの道…… よし、殺そう。 あまりにもナチュラルに危険思想を振りまく、この男の名はガウルン。 本名かどうかも不明で、9つの偽名を持つことからそう呼ばれる傭兵だ。 息をするように人を殺せるガウルンという男は、上機嫌で獲物を探す。 さっき戦った相手でも、盛り上がることは盛り上がったが、すっきりさっぱりとは程遠い結末だった。 だから、この微妙で半端な高揚感を抑える相手を求めて放浪する。 もっとも、彼に本当に満足が訪れるとは思えないが。 もし仮にあったとしても、どれだけ殺せば腹が膨れるやら、わからない。 「半端はいけねぇよなあ、半端は……」 さっきは、なかなかダンスにはいいお相手だったが、積極性が足りないってもんだ。 体を汚すのを嫌がる娘みたいに、傷つくのを恐れすぎていた。 最後に、腕一本持ってかせる度胸があったとしてもまだまだ欲求不満だ。 「やっぱり、なかなかおいしいモノにはありつけない……ってとこか?」 彼からすれば、禁止エリアの発表以外に放送に意味はない。 せいぜい、時報のかわりくらいだ。時報……と考えて、ふと時間が気になった。 時間を、ちらりと見ると、時計は24時26分を指している。 ガウルンは、闇雲に動き回っているわけではない。 最初にこの会場に転送された時はともかくとして、それ以外は、ガウルンは人の集まりそうな場所を中心にめぐっているのだ。 最初の森を抜けて、まずガウルンは考えた。 そして、ガウルンの出した「どこに人が集まるか」というクエスチョンの答えは、ずばり「街」だった。 ビル街などは、当然食料などの物資も補充しやすく、姿を隠す場所も多い。 自分の常識などを考えれば、籠城する相手はそういった場所を選ぶ傾向が強い。 ぼんやり平地や森にいる連中は移動中に自然と見つけられる可能性もあるし、自分から出向いて探す必要もない。 だが、わざわざ探さないと獲物が見つからない点は、まわる必要がある。 それも、逃がさないように底さらいに、だ。 だから、森からわざわざ南下して地図下端の街にまず出向き、次に中央の廃墟に足を運んだのだ。 結果はもう知っての通り、そこに隠れていた連中を見つけては、ガウルンは楽しんでいる。 下の街から中央の街の廃墟、とくれば次の進む先はもう言わずもがな。当然上の街だ。 下から上に、潜んでいそうな場所を、プレゼントボックスでもあけるつもりですべて回る。 最後は、メインディッシュに南東の工場と考えていたところだったが…… もっとも、上から下へワープできることが判明した以上、これはあまり得策ではなかったようだ。 いつでもどこでも縦横無尽に逃げるというのなら、しらみつぶしにする必要はない。 よし、ここを回ったら工場へ向かおうと一人心に誓うガウルンだった。 少し話はそれたが、だからガウルンはA-1、B-1の街を目指した。 もっとも、厳密にはその東にある廃墟のほうが近いのだが、ガウルンに射撃の的になる趣味はない。 空を飛べないマスターガンダムが推進力を利用しながら水上を進むのは、 廃墟に潜んでいる人間から「どうぞ、殺してください」というのとまったく同義。 というわけで、ほぼ全速力で北上していたガウルンは、光の壁に出会った。 ちなみになぜ全速力かというとこれもさっきとまるきり同じ回答で、ガウルンに射撃の的になる趣味はないからだ。 大した遮蔽物もない平原で、遠距離攻撃を苦手とするマスターガンダムがゆっくり進んでいては、ただの的だ。 時速250kmは出るモビルファイターでも、優秀な射撃補正ソフトの前ではドン亀だ。 余談だが、ガウルンが極力遮蔽物の多い街や森などで戦おうとしているのは、 何かに隠れて近づかねば、相手が逃げてしまって楽しめないのに加えて、マスターガンダムが近接特化なのも大いにある。 とにかく、距離を詰めて自身も機体も得意とする近接戦闘に持ち込めば、負けないと思っているからだ。 ただ、単純に自堕落で享楽的に見えるが、その認識は間違っている。 ガウルンは自身の経験と、だれよりも狡猾で深い戦闘および戦術の判断で冷静に戦う、歴戦の戦士……いや修羅なのだ。 さて、光の壁をくぐって1番ラインの街に戻ろうと思った時だった。 天空に駆け上がるように、光の線が流星のように空を切り裂いたのは。 「次の祭りはあそこか」 ― ― ― ― 「―――っ!」 統夜は、地面を異常な速度で疾走する影を見つけ、ビルの陰に隠れる。 銀色のマシンだ。かなり大きい。ヴァイサーガと同じくらい……60mはある。 だが、その巨体の割に、線があまりにも細い。 スレンダーな騎士タイプのヴァイサーガを、さらに細く絞ったようなマシンで、腕にはドリルが付いている。 「やっと……また見つけた」 そう言ってコクピットで統夜では息を吐く。 見つけられたことを安堵しているのか、それとも見つからなかったことを安堵しているのか。 どちらともつかない微妙な溜息。 時刻は約一時間ほど前だったろうか。 統夜は、当初の目的通り、C-7にまで来ていた。……順調とは程遠かったが。 街中に入った途端、別方向――北のほう――から、前述のマシンが現れたのだ。 自分から不意打ちを仕掛け、相手に致命傷を与えてから戦おう、とは決めていても、 咄嗟にそれが実行できるほど統夜の心も技量も追い付いていない。 突然全力疾走でこちらに向かってくるマシンを見て、統夜は姿を隠したのだ。 正面から戦うことを避けるのもあったし、純粋に統夜が見せた一般人的な反応でもあった。 とにかく、細かい理屈はいい。 統夜は、とにかく向こうが全力疾走していたのやらビル街で視界が悪いのやらこの一帯のミノフスキー粒子が濃かったやら、 もろもろの条件で統夜は接触を避けることができた。 それでも、一歩間違えれば正面から戦うはめになっただろう。 統夜も胸をなでおろしながらも、ここにきてからを思い返して背筋が冷たくなった。 そう言えば、自分が切り伏せたあの天使のようなマシンも、まともに考えれば交戦域だったのに気付かなかった。 青い重装なマシンに関しても、ある程度を通り越してかなりそばでやっと気付いたものだった。 そして、今自分も向こうの接近を彩も駆使できる辺りまで気付かなかった。 ……どうも、ここはレーダーがあまり役に立たないらしい。 ある程度高性能なレーダー――戦艦や電子戦用――はともかく、普通の戦闘用のマシンのそういった機能は低下しているとしか思えない。 つまり、予想外からの一撃、その一瞬で終わる可能性だってある。……もちろん、命が。 「逆に考えるんだ、こっちだって奇襲しやすい。こっちに有利だと思うんだ」 これは人と出会って行こうと考えている人間ほど、不利に働く。 出会うチャンスを見失うことも多いのだから。 では、逆に一番この恩恵を受けるのはどんな人間だ? ――他でもない、自分のように極力見つからないように身を隠し、不意討ちを仕掛けようとするような人間だ。 とことん、この会場は人を殺す側に有利にできてるんだな、と乾いた笑みを浮かべるのが限界だった。 その成果、とでも言うべきか。 さっきの放送では、21人もの名前が呼ばれていた。 ゴールが縮まった実感はまるでない。それどころか、まるで今やっとスタートラインに立ったような気がする。 統夜は、コクピットの壁に小さく頭を打ち付けた。 「こんな時に、なに迷ってるんだよ……」 今更ながら……放送に、自分とテニアの名前が呼ばれなかったことにほっとした自分に嫌悪感を覚える。 自分は死んでないのだから、呼ばれるはずがないと頭では分かっていても、 挙された名前に自分と自分の知り合いが含まれていないことを感じて心底自分は安堵していたのだ。 あれほどさっき心に決めたはずなのに、放送一つでまた悩んでしまう自分の弱さが疎ましかった。 「どうせ、みんな死ぬんだ。いまさら悩んだって仕方ない」 そう自分を鼓舞する統夜。 ゆらりと、真っ赤な目を輝かせ幽鬼ごとくヴァイサーガが立ち上がる。 こっそりと、通信を合わせてタイミングを取ろうとして……やめた。 相手の会話を聞いたって、なんになるだろうか。 まして、相手は「一人」なのだ。仲間の機影も見えないのに、一機でぶつぶつ何かを言うことはないだろう。 とにかく、相手が一瞬でも隙が見せたら、そこに光刃閃を叩き込む。 それ以外、ない。 ビルの暗がりで、暗い決意を胸に少年が立ち上がる。 銀の背中を追いかけて。 ― ― ― ― 「遅い! ……ガロードはいったいこのエリアのどこで待っている!?」 今にも癇癪玉を破裂させそうなクインシィに、肩をすくめるジョナサン。 その動きがまた更に癇に障ったのか、クインシィは声を張り上げた。 「なにか文句があるか、ジョナサン=グレーン! 放送は聞いたろう、ガロードもガロードの仲間も生きている。 なら、必ずこの周辺にいるはずだ!」 「オーケイ、クインシィ。今回ばかりはあんたと同意だ。ガロードと合流することは、すべてに優先される」 やれやれと思う気持ちをぐっと押し隠して、ジョナサンは真・ゲッター2を走らせる。 確かに、放送を聞く限り、ガロードも、その仲間の「アムロ・レイ」も死んでいない。 だが、これは死んでいないだけでここに来られない可能性も、十分にあるはずだが…… ともかく生きている以上、ガロードはここに来ると信じているというわけか。 放送前には二人はC-8エリアに侵入していたわけだが、ガロード達はまだ来ていないのだろうと待っていた。 放送を聞いて20分。生きていることが分かり、さすがに遅いという話になったため、こうやって真・ゲッター2で探索しているのだ。 さすがに、人間に例えれば100mを4秒台で走りける真・ゲッター2。 それでも、1エリアが50km四方となれば、60m級の機械でも1,5km四方には相当するだろう。 こうやって駆け回って探し出して5分。地を走るゲッター2では効率が悪い。 「ジョナサン、私に変われ」 ――空から探すのか? 逆に、襲撃者がいれば格好の的だろうな。 そんな言葉が喉までせりあがったが、さらに飲み込む。 今断れば、分離してでも探しに行きかけない気配がクインシィからは発散されている。 まったく、病気が過ぎる。だが、どちらも危険となればまだ自分が同伴しているほうが安全は高まる。 「……そちらも分かった。 チェェェエエンジッ!」 「真・ゲッター1!」 音声入力とは言え、毎回こうやって叫ぶのかと喉を首輪の上から小さく触る。 瞬間、3機の戦闘機に分離して、ゲットマシンが空に舞い上がる。 それでも、一応不審なモノはいないかと地上のビル群をカメラで睥睨したとき――― ジョナサンの視界の端、闇に隠れて見にくいが、確かに濃紺の影がよぎる。 しかも、確実に、こっちに向かってきている――! 「クインシィ、敵だ! 的になる前に避けろ!」 とっさの判断。今ここで、重要なのは見えた影が敵か味方かにあらず。 自分が、無防備な姿をさらしていることこそなによりも気にすべきことだ。 だから、ひとまず敵と決め付けて、危機感をあおる。 「どちらからだ!? このままわたしに操縦をよこせ!」 「そのまえによけるんだよ! ぐううああっ!?」 真・イーグル号を強引に追い抜いたため、強烈なGが体を締め付ける。 それでも、真・ベアー号に誘導信号を送り、急に絵の前現れた真・ジャガー号のため、 ふらついたイーグル号にドッキングさせる。 間一髪、真・ゲッター2は光の刃が届くよりも早く変形を完了させる。 「何をする、ジョナサン。私に変われ!」 「その返事はNO以外ない!」 そのまま、敵も確認せず安定もとらず真・マッハスペシャルを使用。 本来は、完全に分かれて3つになるはずの分身は、時間不足により半端に重なり合った形で現れる。 だが、相手は減速の様子を見せず、全速で突っ込んでくる。 そのまま光の速度で駆けあがる一刀は、空高く打ち上げられ…… 次の瞬間、3重の真・ゲッター2のうち、右端の一機の頭から股下まで切り飛ばした。 しかし、それはフェイク。本物は、中央の真・ゲッター2だ。 青騎士の撃ち出した一撃は、真・ゲッター2の右胸を大きく切り裂いただけで、撃墜には至らない。 24時30分。人工の光もなく完全に漆黒に彩られていた世界、光の矢が大地から空を貫くように飛んだ。 無と負に彩られた黒い大地で、一人の少年の放った輝きが、人を呼び寄せることになるとは……少年は気付かなかった。 刀を振り切ったまま切り抜け、急慣性で動きを変えることもできず、さらに空へ舞い上がる青騎士。 一方、それを尻目に大地へと落下していく真・ゲッター2。 この隙に、ジョナサンは地面に着地すると一目散に、青騎士から離れるように駆けだした。 「なぜだ!? なぜ逃げるジョナサン!」 クインシィの声。操縦に意識を割いていたため、無意識に声を大きくしながらジョナサンは答える。 必死に、集中のすきまでひたすら自分に冷静になることを意識させる。 「今は、ガロードと合流することが優先だ」 「目の前に現れたモノを投げ出してか!? あれは私たちを傷つける!」 「……俺は、ガロード・ランを信じていない」 「何をこんな時に言っている!?」 息を大きく吸って、一息に言い放つ。 「俺を信じ、従えと言うつもりはない。 『クインシィ・イッサーが信じているガロード・ラン』を信じろと言っている。 あんたの信じた男は、約束を破っていると決めつけて裏切れるほどの男か?」 「うっ―――」 言葉に詰まるクインシィに、さらにジョナサンは追い打ち同然の言葉をかける。 「もう一度言う。俺は、ガロード・ランを信じていない。だが、クィーンであるあんたの判断は信用する。 だから、俺は『ガロード・ランを信じているクインシィ・イッサー』の、ガロード・ランを信用する」 ――恨みもするが、今回は感謝もするぜ、ガロード・ラン。 真・ゲッター2がビルをドリルで掘り進みながら、ヴァイサーガから距離を取ろうとする。 しかし、ヴァイサーガもスラスターを全開にした高速移動で空を駆け、追走してくる。 「やるんだ……、今ならできる」 通信から漏れる相手パイロットの焦った声。 いいぞ、と内心笑みを噛み殺した後に、すぐに表情を引き締める。 相手は、こちらが合流しようとしていることを知らない。 いや、気づいていたのかもしれないが、相手を逃がすかもしれないという焦りでそれを忘れている。 ならば、このまま危険を覚悟で振り切るために建造物を破壊しながら走れば、ガロードたちは物音に気付く。 そうなれば、2対1……いやガロードと合流した相手もいれば、3対1、4対1の状況を作れる。 クインシィに危険が及ばないように真・ゲッターをひかせ気味に戦っても、盾になる駒がいれば問題ない。 (問題は、本当にガロードが来るかどうかだが……) あれほどクインシィに大きく啖呵は切ったものの、本当はガロードのことをジョナサンは信じていない。 むしろ、キラのように来ない割合のほうが高いとも思っている。 時間を、ちらりと見る。 時刻 12:33分 ――30分だ。 同じエリア内にいるのであれば、どれだけビルのような障害物があっても、駆け付けられるはず。 30分たって合流できない場合、来なかったと思っていいだろう。 ガロードとこのまま30分合流できない。 かつ、30分こいつを振り切ることができないのであれば…… 「自分がバロンとしてやるしかないということか」 ジョナサンも、奇しくもアムロやブンドル……そして同時にテニアとほぼ同じ思考をたどっていた。 この場は、殺し合いに乗った連中のほうが、圧倒的に強い。そうでなければ、ここまで急激に減ることはないはずだ。 つまり、多少強いマシンでも、1機というのは危険すぎる。 だから、戦闘でき、かついざ自分が後ろから漏らさず撃ち殺すこともできるような…… 自分とクインシィを含み4,5名のグループを作る必要がある。 そのためには、結成の要因となるガロードの存在は必須だ。 彼女の病気が悪化する恐れもあるとしても、これは絶対。 クインシィが自分の制止を振り切り、単独で動き回る危険があるのは今さらな話だろう。 止めるのも難しい。 その行動に付きまとう危険は想像以上に高い。 はっきり言って、むき身の体でグランチャーやブレンパワードに戦うにも等しい。 それが、あの放送で知りえた情報だ。 クィーンたる女は、周囲の働き蜂のそばから離れてはいけない。仮に女王がそれを望んだとしても、だ。 だが、女王はだれの意にも従わず、自分の意思を通すだろう。 それが、女王なのだから。 (だからこそ、ガロードがいる。やつは勇と俺の身代わりになってもらう) ジョナサンは、考える。 ガロードはクインシィの抑制剤になりえる。 依存し始めた今ではその効果は中々といったところだが、これからさらに行動を共にすれば効果はぐんと上がるだろう。 女王を、自然と安全な方向に誘導する。 依存が加速することと、生死の危険を抑えること。 さっきまでは、前者の天秤のほうに傾いていると思ったが、実情逆だった以上迷いはない。 意地でも、ガロードにはクインシィを抑え、守ってもらう必要がある。 それが、ガロードに与える勇の身代わりとしての役目。 ジョナサンは、考える。 ガロードといれば、クインシィの暴走はひとまず抑えられる。 戦う力もある以上、クィーンのためのルークにもなりえる存在。 ならば、自分が何をすべきか。ジョナサンの目的は、女王をオルファンに帰還させること。 そのためには、クインシィを最後の一人にする必要がある。 反抗者を集って脱出する? あの化け物と戦う? その発想は、あまりにも甘ちゃんの発想だったと今のジョナサンは理解している。 放送を聞けば、一目瞭然。自然と、化け物と戦えるだけの力を持つ人間も倒れていくだろう。 ジョナサンの出した結論。 次の第3回放送ののち、グループを離れて参加者を狩る。 そして、最後に自分たちのいたグループ――ガロード含む――を殺す。 これから12時間で、クインシィの依存は完成するはずだ。 そうなれば、自分が目を切ることに問題はなくなる。 ジョナサンがいない間、クインシィを守る……それが、ガロードに与えるジョナサン=グレーンの身代わりとしての役目。 「女王のルークをやらせてやれる程には信用しよう、ガロード・ラン……!」 ジョナサンが、真・ゲッター2で駆ける。 ただ、ひたすら夜の街で他者信じて。 【紫雲統夜 登場機体 ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A) パイロット状態 微妙に焦り、マーダー化 機体状態 左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、若干のEN消費、烈火刃一発消費 現在位置 C-8端(C-7の市街地視認可) 第一行動方針 合流前に真・ゲッターを落とす。 最終行動方針 優勝と生還】 【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日) パイロット状態:疲労小 機体状態: ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中 現在位置:C-8 第一行動方針:ガロードとの合流 第二行動方針:勇の捜索と撃破 第三行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています) 第四行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】 【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日) パイロット状態:良好 機体状態:ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中 現在位置:C-8 第一行動方針:ガロードとの合流 第二行動方針:強集団を形成し、クインシィと自分の身の安全の確保 第三行動方針:第3回放送後は、参加者を狩る。 最終行動方針:どのような手を使ってでもクインシィを守り、オルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先) 備考:バサラが生きていることに気付いていません。 →戦いの矢(ver.IF)(2)
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/213.html
レプラカーン 機体名 レプラカーン 全長 8.8メット(1メット≒1メートル) 主武装 オーラ・ショット オーラバトラーサイズに拡大した実弾銃。左腕部シールド内に内蔵されている。 火焔砲 文字通りの火炎放射器。右腕部に内蔵され、中~近距離で威力を発揮する。 オーラ・バルカン 両肩オーラコンバーター内に装備。連射が利き牽制に有用。 オーラ・キャノン 腰部に装備されている実弾砲で、レプラカーンの内蔵火器では最大威力。 グレネード 脛部アーマー内に携帯されている手投げ式手榴弾。両足一発ずつの計二発。 オーラ・ソード オーラバトラーのサイズに拡大した長剣。左腕部のシールドがそのまま鞘になっている。 特殊装備 シールド 左腕部と一体化しており、内部にオーラ・ショットとオーラ・ソードを内蔵。 オーラバリア オーラコンバーターを通した操縦者のオーラ力を機体の周囲に展開。最大出力では理論上は核攻撃すら防ぐとまで言われている。 ハイパー化 全身を覆うオーラバリアが操縦者のオーラ力に呼応して機体の形を保ったまま増大、結果として巨大化する。絶大な戦闘力を発揮するが、完全なハイパー化の先にあるものは自滅のみである。 移動可能な地形 空中○、陸地○、水中△(オーラバリアを展開すれば潜行程度は可能と思われる)、地中× 備考 ドレイク軍によって開発されたオーラバトラーで、ビランビーの発展型。他のオーラバトラーと比べて一回り大きな機体外装と全身に装備された火器が特徴。火力にかけては他のオーラバトラーを凌駕するがその分機動兵器としてのバランスを失い、一部のエースパイロットにしか使いこなせないピーキーな機体となってしまった。劇中ではバーン、フェイ、ジェリルが搭乗してショウと死闘を繰り広げた。特にジェリル・クチビの搭乗機はジェリルのオーラ力に呼応して作中で初めてハイパー化を果たしたが、結果的には暴走するオーラ力に耐え切れず、ビルバインの一撃と共に崩壊してしまった……
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/342.html
破滅の足音 ◆7vhi1CrLM6 「『機体の整備』はもういいのか?」 ブリッジに足を踏み入れるなり、声を掛けられた。 この戦艦そのものの声と言っても過言ではないJアークのメインコンピュータートモロの声。 それに「今はカミーユとキラがやってくれている」と返す。 事実、二人は機体の整備を続けていた。 VF-22Sへの反応弾の搬入は既に終わり、書き換えられたF91のOSの復旧を今キラは行なっている。 アムロに最適化されたOSがキラに扱いづらかったように、戦闘中に書き換えられたOSよりも元の方がアムロに適していた。 そして、手の空いたカミーユが向かい合っているのが『機体の整備』、即ち首輪の解析。 その手伝いもせずにアムロがブリッジへと引き返して来たのには、それなりの理由がある。 「指定されたポイントには到着した。それでどうする?」 現在Jアークは、模擬戦を行なったD-3地区を南下し、エリア境目ギリギリの位置で止まっている。 目と鼻の先はもうD-4地区――禁止エリア。 だが、ブンドルの言が正しければその超高々度に―― 「少し調べたいことがある。トモロ、D-4地区の地図を展開してくれ」 ――天国へと至る門、即ちヘヴンズゲートが存在する。 巧妙に隠蔽され、これまでサイバスターのラプラスコンピューターでしか感知できなかったその存在。 だがしかし、その本質は不安定さからくる空間の綻びである。 ES空間という別次元の空間の運用を前提としたこの戦艦ならば、観測できる可能性は高い。 メインモニターに展開された地図とブンドルの話を重ね合わせつつ、幾つかの地点を指定していく。 それは、サイバスターによって綻びが観測された中から、アムロとブンドルが選別を行なったポイント。 「アムロ、ここに何かあるの?」 「何か……そうだな。一先ずヘヴンズゲートとでも呼んでおこうか。それを探しているんだ」 盗聴を警戒しているとは言え、我ながら答えになっていないと思いつつ返す。 案の定、首を傾げたアイビスは怪訝な顔をしていた。それに「じきに分かるよ」と言って端末に向き合う。 ここからは全てタイピング。 盗聴どころか盗撮までされていたらお手上げだが、それはないと信じてトモロに指示を出す。 『なるほど空間の観測を行なうわけか』 『Jアークならできるな? 発生の前兆、あるいは周期と規模が知りたい』 空間の綻びというものは、常何時でもそこに存在するという類のものではない。 空間そのものが持つ力か、あるいはこの空間を作り出した者の力か、綻べば繕われ、穴が空けば塞がれる。 ならば重要になってくるのは、発生の時期と規模に、発生した瞬間繕われるよりも早く強引に突き破られるだけの力。 それに必要なのは、膨大な量のエネルギー。 ブンドルの見込みでは、コスモノヴァと同等以上の火力が最低三つと曖昧なもの。 詳細な量は分からず、未だ条件も揃わない。 だが、ナデシコとの合流が成れば、条件を満たす可能性が出てくる。その時に備えて出来るだけのことをしておく必要がある。 『細かな状態を観測するのは、この距離では不可能だ。レーダー類も本調子ではない。 統計から綻びの生じやすい箇所を特定することは可能だが、どちらにせよ一定時間の観測が必要だ』 『ミノフスキー粒子の影響か……仕方ない。Jアークを一時この場に固定する。 時間は多少かかってもいい。出来るだけのデータを集めてくれ』 「了解した。少々時間を貰おう。だがその前に、東から未確認機が二機接近してくる」 時刻は12時半。ロジャー・スミスがJアークを離れて既に5時間半が経過。 そろそろ接触を持った者たちが集まり始めてもおかしくはない。とは言え会談までにはまだ間がある。 偵察がてら周囲の探索を行なっている者たちならばいいのだが、そう楽観視もできない。 「カミーユとキラに連絡を。F91のOSの状態次第で、俺かキラのどちらかが艦に残る」 ◇ 「ちょっと待った、ブンドルさん!!」 先行するサイバスターから送られてきた映像を一目見て、甲児は声を上げる。 廃墟の街並みの上空に浮かぶ一隻の戦艦。 その姿を知っている。 かつて、とある戦艦の救援に駆けつけたD-7地区で、直に干戈を交えた相手。 その脅威を知っている。 そして、テニアを虐げ、彼女の姉とすら言える人の首を刈ることを強要した極悪な集団。 その許せなさを甲児は――知っている。 テニアの話を思い出しただけで胸が痛み、胸糞が悪くなってくる。その気持ち悪さごと吐き捨てるようにして、甲児は叫んだ。 「Jアークだ!!」 その一言で十分だった。これまでの道中で既にナデシコの話は済んでいる。 警戒を強めたサイバスターが、前方で動きを緩める。その先で、Jアークから数機が飛び立つ。 一、二、三、その数三機。 Jアークに残っているのは、キラ・ヤマトとソシエ・ハイムの二人だけのはず。 「どういうことだ!? 数が多いぜ」 「あの機体は……待て、甲児くん。私の知り合いだ」 「ブンドルさんの知り合い!? じゃああれはJアークじゃないのかよ」 ストレーガを止めようとブレーキをかけ―― 「こちらJアーク、キラ・ヤマト」 「やっぱりJアークじゃねぇか!!」 ――大きくバーニアを噴かす。一気に速力を上げ、脇目もふらずただ一直線に。 「甲児くん!!」 「分かってるって。あのキラって奴をやっつけて、騙されてるブンドルさんの知り合いを助けるんだろう」 「いや、違っ」 「やいやいやい、キラ・ヤマト!! この俺、兜甲児と雷の魔女ストレーガが相手になってやるぜ!!!」 「ちょっと待って。僕の話を」 「恍けやがって!! だがこれ以上お前の好き勝手はさせねぇぞ!!! ライトニイイィィィィィングショォォォオオオオオオット!!!!!!」 「ちょっと撃ってきたよ。どうするの、アムロ?」 「アムロさんの知り合いでしょ? どうにかしてください」 「……ガロードじゃないのか?」 ざわめき、瞬く間に場が混乱していく。 その中で甲児の気を引いたのは女の声。蒼い機体から流れてきた声だ。 「お前がソシエか! 女だからって容赦しねぇからな!!」 「へっ?」 「待ってろよ! キラを倒したら次はお前の――」 「少し落ち着け、甲児くん」 脇見をしながら全速で突撃していたストレーガが、先回りしたサイバスターに足を引っ掛けられて盛大にすっ転ぶ。 もんどりを打って肩からアスファルトの大地に激突し、弾んで背中を打ち、なおもコミカルに三四回転して勢いはようやく止まった。 廃墟の街並みに真一文字の土煙が巻き上がる。 回るコックピットの中、上下前後無茶苦茶に振り回されながらも、しかし甲児はめげない。 桁外れのパワーを誇るマジンカイザーの反動に比べれば、この程度屁でもない。 「この程度でこの俺とストレーガが止められると思うなよ!!」 素早く起き上がるストレーガ。倒すべき敵Jアークだけを見据えたその瞬間、背後から羽交い絞めにされた。 「何すんだよ、ブンドルさん!!」 「ブンドル、どういうことだか事情を説明してくれないか?」 「原因はそちらにある。だが今は落ち着いて話をするためにも取り押さえるのを手伝ってくれ」 「なんだって! くそっ!! まさかブンドルさんまであいつに騙されてたなんて……許さないぞ、キラ・ヤマト!!!」 「君は少し人の話を聞け」 機体サイズはサイバスターのほうが遥かに大きい。 だが、機体そのものの純粋な力ならストレーガはここの誰よりも強い。 その地力にものを言わせて暴れまわったストレーガが、サイバスターを引き剥がす。 「くっ! 油断した」 「逃げたよ!!」 「追うぞ!!」 「どこに逃げたんだ?」 「へへーんだ。そう簡単に捕まって堪るかよ!!」 「その声、北か!! 追いかけろ!!」 そんなこんなでよく分からぬままに兜甲児捕獲作戦が展開されること十数分。 さんざてこずらせながらも多勢に無勢で次第に追い詰められ、甲児はとうとう捕まってしまった。 「何しやがる!! 放せ!! 放せってんだよ、この野郎!!!」 ◆ 「原因はこちらにあると言ったな、ブンドル。事情を話してもらおうか」 甲児を取り押さえた数分後、Jアークのブリッジにアムロの声が響いた。 その声に、もう少しでギンガナムの二の舞になるところだった、と安堵していた思考を呼び戻し、ちらりと二人の少年を見やる。 「彼らは?」 「Jアークを動かしているキラ・ヤマトと以前話したカミーユ・ビダンだよ。 それと……今甲児くんを見張っている彼女は知っているな? アイビス・ダグラスだ」 黒い髪の少年と青い髪の少年を値踏みする目で眺め、黒い髪の少年を指して言う。 「なら、原因は彼とこの艦にある。甲児くんはガロードの代わりにナデシコから連れてきた少年だ。 この戦艦との二度の交戦を経て、彼を危険人物と見なしている」 キラという少年の顔が曇っていく。だが、それに躊躇することなく言葉を続けた。 「かつてこの艦に捕縛されていたテニアという少女の話だが、彼は彼女の仲間の死骸から首輪を取ることを強要し、共犯者になれと迫ったとも聞いて――」 「それは違う!!」 少年が短く鋭く叫んだ。 真っ直ぐにこちらを射抜いてくる視線。怒りよりも悲しみを多分に含んだ眼光。 いい目だと思いつつ、圧し返すつもりで視線を合わせる。 「僕はそんなことしていない」 だが、少年の瞳が揺れることはなかった。 無理に踏みとどまったのではなく、後ろ暗いことは何もしていないと自分を信じきった目だった。 「あなたはどうなんですか?」 不意にもう一人の少年――カミーユが、どこか責めるような口調で横から言い放つ。 「どうとは?」 「その甲児って奴がどう考えているのかはわかりました。でもそれは、甲児がどう考えているかだ。 あなたはまだ自分の考えを言っちゃいない。他人の考えを自分の考えのように言っているだけです。 それって卑怯だとは思わないんですか?」 「カミーユ」 嗜めるアムロの声に「だってそうでしょ」と返すカミーユ。 なるほどセンシティブだ。感受性が強く、繊細な感性を持っている。だが、それだけでもない。 この少年もやはり真っ直ぐなのだ。感じたことを率直に言いぶつけられる若さがある。 「答えてください。俺はまだあなたの意見を聞いちゃいない」 納得がいくまで退かない視線をそこに感じて、感づかれないよう心の中で微笑む。 キラもカミーユも、そして今縛られている甲児もサイバスターの操者候補として悪くない。 「そうだな。私の意見を言わせていただこう。率直に言うと、まだ信用できないといったところか。 私自身がテニアの話を聞いたわけでもなければ、会った事があるわけでもない。ただ彼女の言い分を知っているだけだ。 それに対して君達とも今始めて会ったばかり、やはりよく知らない。だから君達のここまでの行動と言い分を聞かせてくれ。 それで君達が信じるに値する者かどうか、私なりに判断させていただく」 ◆ 一方そのころ別室では、縛られた甲児とアイビスが向かい合っていた。 椅子の背もたれに両腕を組み、顎を乗せた格好で、ウィダーinゼリーを啜りながらアイビスが言う。 「だ・か・ら、何回も言ってるけどあんたがそのテニアって娘に騙されてるんだってば」 「何言ってやがんだ。キラって奴に騙されてるのはそっちだろ」 それに、後ろ手に縛られた上にベッドの足に縛り付けられた甲児が言い返した。 アイビスが言えば甲児が言い返し、甲児が言えばアイビスが言い返す。 「悪いのはテニア」 「キラだ」 「テニア」 「キラ」 「テニア」 「キラ」 「テニア」 「キラ」 ・ ・ ・ 「ああ、もう!! どうやったらキラが悪者じゃないって分かるんだ!!!」 既に何度繰り返されたのかすら分からないこのやり取り。 議論は常に平行線。互いに一歩も譲らないまま時間だけが無為に過ぎ去っていく。 あまりの相手の頭の固さについ苛立って、大声を上げてしまった。 でもそれはきっとお互い様だったのだろう。甲児も負けじと大声を張り上げて反論を返してくる。 「そっちこそどうやったらテニアは悪くないって信じてくれるんだよ!!! テニアは俺達が保護したとき震えながら泣いてたんだぞ。仲間を、大事な大事な友達を殺された。その首輪を無理やり取らされたって。 それが全部嘘だってのかよ!! そんなわけがねぇ。悪いのは人を人とも思わないキラなんだ。あんたは騙されてるんだよ」 「私はね。ここに来てからいろんな人に守られて、私だけが生き残ってしまって、罪悪感に押し潰されそうになってた。 それでも色んな人のお陰で持ち直せて、その人たちの為にも精一杯生きて行こうって決めて、でも何も具体的なことは思いつかなかった。 そんなときにキラに会ったんだ。キラはこの廃墟で、いるのかどうかも分からない私に向かって呼びかけた。 戦うことを、生きることを否定することはできないって。大事な人が殺されたのなら、殺した誰かを憎むことは、当然のことだって。 でも、それが全てじゃないって。 キラも亡くしたんだ。友達を、大事な人を。でも、誰かの命を糧に生き返ることを、そのために誰かを殺すことを、その人達は絶対に許さない。 だからこの戦いの原因を一緒に討とうって言ったんだ。無謀なことだけど、それがきっと、もういない人たちへの、弔いになると思うからって。 私はその言葉が嘘だったなんて思いたくない。例え、甲児の言うようにそれが嘘だったとしても、一瞬でもその言葉を疑うような自分でいたくない」 「分かってんだ、そんなことは。誰かを生き返らせるために誰かを犠牲にするなんてのは間違ってる。そんなことは分かってんだよ。 だから許せねぇんだ! 大事な人を無理やりにでも手にかけさせたあの野郎を!! 俺は決めたんだ! これ以上こんなことを続けさせてたまるか、俺たちで止めてみせるって。 絶対に、この殺し合いを終わらせてみせるって。そう誓ったんだ!!」 立ち上がった反動で椅子が倒れ、ガタンと音を立てる。 精一杯乗り出した上半身に引っ張られて、ベッドの足が軋みを上げる。 「だったら私らに力を貸してよ!!」 「そっちが俺たちに力を貸せよ!!」 言ってることも考えていることも同じだ。 同じはずなのに。何も違わないはずなのに。キラを信じているか、テニアを信じているかの一点だけで分かり合えない。 たったそれだけの違いなのに、互いに歩み寄れない。それが悔しくて唇を噛んだ。 「……なんで分かってくれないんだ」 理由なんて分かっている。同じなんだ。自分がキラを信じているように、甲児はテニアを信じてる。 相手の主張を認めてしまえば、それは信じた仲間への裏切りになる。そんなことが出来るはずがない。 そして、自分は間違っていないと確信している。 だからどちらからも歩み寄れない。足が前に出て行かない。今ここでどれだけ言葉を重ねても、互いの言い分は覆らない。 私は――『無力』だ。 甲児をじっと見つめ、そう思った。真っ直ぐに見返してくる目。急速に徒労感が体を満たしていく。 「ハァ……もうこれ以上何を言っても無駄かぁ……暴れないでね」 そう呟くと甲児に近づいて、後ろ手に縛っていた縄を解いてやった。 「いいのかよ?」 「よくないよ。でもいいんだ。あんたが悪い奴じゃないってのは、よく分かった」 腕に残った縄の跡を摩りながら呟いた甲児の声に、溜息まじりに答えながら思う。 何をやっているんだろうなって。きっと皆に見つかったら怒られることをしてるんだろう。 でも、どうにもこいつをこれ以上縛っておくのは違う気がして、忍びない。悪い奴じゃないんだ。 あーあ、やっちゃったなぁ、と困り顔でいたそのとき、予想外の提案が持ちかけられた。 「なぁ、一つ賭けようぜ。テニアとキラ、どっちが正しいのか。負けた方は勝った方の言うことを何でも一つって条件でさ」 「え~」 「だってアイビスさんはキラが正しいって信じてんだろ? それとも自分が間違ってましたってここで認めるのかよ」 「認めないよ、私は」 「だったらアイビスさんはキラに、俺はテニアに賭ける」 「待ってよ。私は賭けをやるなんて一言も」 「何だよ。逃げるのかよ。キラって奴の信用度もその程度なんだな」 「うっ……に、逃げないもん」 「へへ、なら決まりだな」 「う~~~~~~~~~~」 乗せられて上手く誘導されたような気がして、何となく釈然としないものを感じてアイビスは唸る。 そして、この選択が数分後さらにハチャメチャな方向に彼女を引っ張っていくことになるのだが、このときはまだ知る由もなかった。 「ハァ……なんでこうなったんだろ」 ◆ キラの話を聞き、カミーユの話を聞いたブンドルの声がブリッジに響き渡る。 眼光は冷たく、鋭く。硬質な、固い声だった。 「なるほど状況を理解した。つまり、君は自分の非を認めた上でナデシコとの話し合いを望み、それをネゴシエイターに託したという訳か」 「そうなります」 「嘘はないのだろう。ナデシコ側(主に甲児くんからだが)から聞いた事実推移にもほぼ当てはまる。君の事を信用しよう。 だが、一言言わせていただく。自分の犯した罪の精算を代理人に行なわせるなど、呆れ返る。 それに人命が失われている以上、君の犯した間違いは謝って許されるレベルのものではない」 「カミーユにも同じようなことを言われました。それでも、人が集まることに意味はあるはずです。 話し合って、それでも僕が原因でJアークとナデシコが手を組めないのなら、僕がこの艦を降ります」 「それは逃げだな」 「違う。そんなんじゃない」 その場をアムロは、一人冷静に眺めていた。 厳しい言葉を吐き続けているのは、ブンドル。だが、それをこの男はわざとやっている節がある。 覚悟の度合いを見ようと言うのだろうか。嫌われ役を買って出てくれてもいるのかもしれない。 いや、両方と見るのが妥当。 ならば、自分に求められているのは、集団のまとめ役ということか。 合流すれば少しは楽になるかと思ったが、どうも見通しが甘かったらしい。溜息混じりにそう思った。 そろそろ頃合、と見て仲裁に入る。 「そこまでにしろ。ブンドル、少し言葉がきつ過ぎるぞ。キラの覚悟はお前が思っているほど甘いものじゃない。 キラ、軽々しく艦を降りるなどとは言うな。それはお前を信じてここに留まっているカミーユやアイビスを軽んじることになる。 カミーユは少し気持ちを落ち着かせろ。言いたいことは分からないでもないが、お前が一番感情的になりすぎている」 「……そうだな。すまない少し言い過ぎたようだ。だがキラ、君はここの話が終わったら一度甲児くんとじっくり話をするべきだ」 「ええ……そのつもりです」 二人の会話の隅で、口こそはさまなかったもののカミーユが一人、納得がいかないという顔を向けていた。 やれやれ、ブンドルがその立ち位置を続けるつもりならば、気苦労耐えない位置に自分は立たされたと言うべきか。 年端も行かない子供達を纏め上げねばならなかったブライトの苦労が、少しは分かった気がした。 ともあれ、話は前に進めねばならない。 「ブンドル、そちらの話を聞かせてくれ。彼……甲児くんをガロードの代わりに連れてきたと言ったな。 ならガロードは、今はナデシコか?」 「そうなる。ではナデシコとの合流から話をさせていただこうか」 そう言って語られ始めるのは、ガロードが同行しなかった理由、仮面の二人組との接触、基地の状況。 そして―― 「このデータをそのユーゼスから送られた。アムロ、君の意見を聞かせてくれ」 ディスプレイに映し出されたデータ。円環状の物体の三次元図面に、アンチプログラムと銘をうたれた膨大な量のプログラム。 プログラムはともかくとして、この円環状の物体はほぼ間違いなく――コンコンと首輪を指で突付いて見せた。 「だが、意図的に情報の一部を抜かれたような感じだな。 カミーユ、どう思う? お前が一番この中でユーゼスという男を知っている」 「俺が手を付けた部分はまだほんの少しですが、本物だと思います。実際にあいつはこの作業を行なっていた。 だけど、あいつは恐ろしく打算的な奴で異常に頭も切れる。何の考えも無しにただこれを渡したとは考えづらい。 何か裏に意図が隠されている、と見るべきでしょうね」 「私も同意見だ」 「そうか……キラ、君は?」 その問いに眉間に皺を寄せ、食い入るようにプログラムに目を通していたキラがはっと振り向いた。 「右の……プログラムの方ですが、量が膨大な上に複雑すぎてこれが何なのかは分かりません。 詳細まで把握しようと思ったら幾ら時間が必要か……。 だからこれは直感ですけど、アンチプログラムと銘をうたれてますが、ナノマシンか何かのプログラムだと思います」 考えを纏め上げるように、自分の頭の中を出来るだけ整理しながら少年は話し続ける。 「ただ、これを理解出来たとして、手を加えろというのならともかく、同じものを作れと言われたら、今の僕には到底不可能です。 これは一人の天才が十年二十年と人生を懸けて構築するようなレベルの代物だと思います。 だから幾らそのユーゼスと言う人が優れていたとしても、これをここに来てからの僅かな時間で作り上げたとは思えない。 何かしら元となるものを見つけ、そこからプログラムだけ複製して抜き出した、そう見るべきだと思います。 それにこれが本当にナノマシンのプログラムなら、これだけでは意味を為さない。 プログラミングされていることを実行できるだけの器が、どこかにあるはずです」 キラは愚かこの箱庭にいる誰もが知らない。それがDG細胞と呼ばれるもののプログラムであることを。 地球環境を浄化を目的とし、「自己進化」「自己再生」「自己増殖」の3大理論を備えながらも、落着の際に狂いが生じたものであるということを。 だが、誰一人として同じものを知らずとも、幾多の次元から集められた中には類似の存在に触れた者が存在していた。 「少しいいか。私のデータベースにこれと同一のものは存在しないが、類似したものが二点存在している」 幾ら優れていると言っても所詮生身の人間であるキラと違い、トモロは高性能な演算能力を備えたコンピューターである。 プログラムの全貌を掴むのも人より遥かに素早い。 その結果、自身のデータベースから探り当てたこのナノマシンに類似したもの、それは―― 「三重連太陽系の紫の星で開発されたストレス解消作用を持つ自律ユニットが、暴走し、性質を大きく変えて独自に増殖、進化したもの――ゾンダーメタルのプログラムだ。 地球文明とは別系統の文明の為、使用されているコンピューター言語は異なるが、変換し、共通部分を抜き出すと見えてくるものがある。 ゾンダーメタルは重原子が複雑に結合した金属結晶だが、知的生命体に寄生し対象をゾンダー化させる力を持つ。 それに似た性質。このナノマシンは他者を侵食する可能性を秘めている。それを持ってアインスト細胞の除去を行なおうとしてるのではないか」 「そういえば、以前ユーゼスは三つの『これ』の違いについて、キョウスケ中尉の意見を聞いていました」 そう言って自身の首輪を指し示すカミーユ。 「三つの?」 「ええ、俺たちはこれを二つ回収できたんですが、全て形状が異なっていたんです。 一つは玉の壊れたもの。一つは山火事の中で回収したものの異形の変化を遂げていたもの。最後は普通の状態のものです。 それについて思い当たる節がないか、奴は聞いていました。 それに中尉は、専門的なことは何も分からないが、仲間に機体に付けられた赤い玉を砕いたら元に戻ったことがある、と答えていました」 「だが、これを砕く程の衝撃を喉に与えるのは危険だ。加減を誤れば器官が潰れかねん」 「ええ、だから奴はこのナノマシンでの除去を思いついたんだと思います。採取源は恐らく山火事で回収したものでしょう」 「なるほどガウゼの法則か」 「ガウゼの法則?」 「同一のニッチ、即ち生態的地位に二つの種は長く共存することは出来ないという考え方だよ。 生物学の考え方だが、仮にアインスト細胞とやらとこのナノマシンが同一のニッチに属するものなら、互いに滅ぼしあいどちらかが残ることになる。 それを利用しようというのだろう」 これまでそれぞれ異なる道を歩み、それぞれが散らばる希望を集めて回った。 それが今、少しずつではあるが身を結び、前に進もうとしている。その手ごたえを感じる。 しかしそこに響くのは、このナノマシンと類似の性質を持つゾンダーメタル、それを敵とするトモロの忠告の声だった。 「ならば、止めておいたほうがいい」 「何故だ、トモロ」 「このナノマシンがゾンダーメタルと同系統の性質を持っていること前提で話を進めるが、一歩間違えれば機械昇華が起こりかねない」 「機械昇華とは?」 「惑星内のすべての物質とすべての動植物が、機械との融合体となった状態のことを我々はそう呼んでいる。 浄解の能力を持つ者か、最低でも核を浄化できる力が見つからない限り、危険が大きすぎる」 確かに言われてみれば、だ。 人に、生物に侵食する可能性のあるものを首輪に注入して、人だけが無事でいられると言う保証はどこにもない。 むしろ影響を受けると考えるほうが遥かに自然。 ならば、だ。ならば、そのユーゼスという男はその危険性に付いて気づいていないのだろうか。 いや、話を聞く限りではこの危険性に気づかないような男とはとても思えない。となると―― 「カミーユ、ブンドル、奴はその力に当るものを隠し持っていると思うか?」 「正直、分かりません。奴は一人で作業を行なっていた。具体的に何をしていたのか、俺はよく知らない。 そういうものを見つけた素振りはありませんでしたが、何を用意していても可笑しくない、そういう奴でもあります」 「同意見だ。あの男には、一か八かの賭けに出るほど追い詰められた素振りはなかった。 隠し持っている切り札が、これと言うことは十分にありえる。 結局は自分に頼らざる得ないことをこちらに理解させ、協力を求めるのが、あの男の狙いなのかもしれん」 「あいつは協力なんて求めてきませんよ。ただ他者を利用しようとするだけです。 それに奴の手持ちのナノマシンの量で、何人の解除が可能かも分かりません。 利用するだけ利用しておいて切り捨てられるということは、十分に考えられます」 「どちらにしても、ナノマシンの除去を行なえる技術に心当たりがあると見て動くしかありませんね。 勿論、僕達自身でも探さなければなりませんが……」 そう。その通りだ。自分たちだけで状況を打破できる道を得ない限り、結局はユーゼスの手の平の上と言うことになる。 一つでも二つでもいい。奴の手札を減らし、こちらの手札を増やす必要がある。 「トモロ、類似したデータが二つあると言ったな。もう一つは何だ?」 「詳細なデータを得たわけではないので確証は持てないが、フェステニア・ミューズの乗る機体に似たようなナノマシンが使われている痕跡がある。 ただ恐らくだが、ユーゼスの持つものよりも若干性能が劣るだろう、場合によってはアインスト細胞に逆に駆逐される可能性もある」 「あれか……」 「心当たりがあるのか?」 「ええ、以前の交戦で霧のように空気中に散布されるのを見たことがあります。 構わず飛び込もうとしたんですが、上手くいえないけど凄く嫌な予感がして、気づくと機体を止めてました」 「そうか……だが機会があれば、確保しておくべきだろうな」 一つ息をつき、とりあえずここまでの情報はまとめておくべきなのだろう、と思う。 その上で更に話し合いを重ね、意見を出し合い、深めていけばいい。それを口にしようとした瞬間―― 「へへーんだ。誰が二度と捕まるかってんだ!!」 ――威勢良くブリッジの気密度が開かれた。 思わず全員が一斉にそちらを振り向き、しまったという顔をした甲児の姿が目に飛び込む。 「あっ……やべっ!!」 「こら!! 待ちなさいって!!!」 言うが早いか引き返し、瞬く間に遠ざかっていく足音。それを追いかけているのかアイビスの大声も響き渡る。 顔を見合わせたカミーユとキラが溜息を吐いて、勢いよく飛び出して行った。 「ブンドル、素晴らしく行動力に満ち溢れた少年を連れてきてくれたものだな。将来が楽しみになってくるよ」 「……皮肉はよしてもらおうか」 ◆ 「何やってるんですか、あなたは」 狭い通路の先で、アイビスに追いつくなりカミーユが抗議の声を上げた。 それに両手を合わせて「ごめんなさい」と謝る声を耳にしながら、しきりに左右を見回して逃げ出した甲児の姿を探す。 だが、どこかに隠れてしまったのか、姿が見当らない。 「アイビス、彼はどっちに?」 「ごめん……完全に見失ってしまって分からないんだ。だからキラは私と来て、格納庫と甲板を押さえておいたほうがいいと思う」 「なら、俺は艦内を回って探し出すよ。ブリッジも気になるけど、アムロさんとブンドルさんが残ってるから大丈夫だろうし」 「カミーユ、怪我してるんだから無理しないで」 「心配要らない。それより狙われるとしたらキラ、お前なんだからそっちこそ気をつけたほうがいい」 「大丈夫」 「じゃぁ、気をつけて」 そう言って二手に分かれる。 狭い艦内を駆けて、アイビスと共に格納庫に走りこんだとき、キラはそこに甲児の姿を見つけた。 逃げるもせず、機体に乗り込むわけでもなく仁王立ちしてる様子に若干の違和感を覚えながら、思わず身構える。 それを見てか目の前の甲児も身構えた。カミーユとの殴り合いで痛めた傷が、痛かった。 「アイビス、ブリッジに連絡を」 怪我をしていようがどうしようが、応援が駆けつけるまでは一人でどうにかするしかない、と覚悟を決めた瞬間―― 「ちょっと待ちなよ、甲児。殴り合いをさせるために手を貸したんじゃないんだから。 キラをナデシコに連れて行くんでしょ?」 赤毛の少女が怒りながらヅカヅカと甲児に詰め寄って行った。 そして、次の瞬間にはクルリと振り向いてキラに視線を合わせる。 「キラもストレーガに乗って。探してたんでしょ、ナデシコを」 「えっと、つまり彼の脱走劇は……」 「うん。ただのお芝居。何か気づいたら手伝う羽目になっててさ」 あっさりと言ってのけた少女を前に、何か一気に体の力が抜けた気がした。 「キラ・ヤマト、俺はお前のことが信用ならねぇ。でもなぁ、アイビスさんと俺の話し合いじゃ埒があかねぇんだ。 キラが悪い。テニアが悪いってどっちも譲らねぇ。 だからアイビスさんに手伝ってもらって、お前をナデシコに連れて行くことに決めたんだ。お前が本当に悪くないって言うのなら誤解を解いてみやがれ」 ああそういうことかとようやく納得がいった。 同時にちょっと前にブンドルに言われた『自分の犯した罪の精算を代理人に行なわせる』という言葉が、脳裏を過ぎる。 別にロジャーに罪の清算まで依頼したつもりはキラにはない。 だが、ロジャーに連れて来てもらおうというのはどこか甘い部分もあったのだろう。それを窘められたのだ。 それに、だ。それにもし自分が一人生身でナデシコに飛び込むことが、少しでも誠意となるのなら悪くはない。 そして、仲直りするのなら早いほうがいいに決まっている。だからこのときキラは、迷いなく一人でのナデシコ行きを決意した。 「分かった。ナデシコに行ってくるよ」 Jアークの甲板から飛び上がったストレーガが飛び上がり、宙に浮く。 一拍遅れて発進したネリー・ブレンを迎え、そして二機はバイタルグロウブの流れに乗ってその場から掻き消えた。 ただ彼らの信じる真実へと向かって、ひたすら真っ直ぐに。 【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない) 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN75% 無数の微細な傷、装甲を損耗 現在位置:E-2 第一行動方針:ナデシコのキラの誤解を解く 第二行動方針:協力者を集める 第二行動方針:基地の確保 最終行動方針:精一杯生き抜く 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】 【兜甲児 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D) パイロット状態:良好 機体状態:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し) 現在位置:E-2 第一行動方針:テニアが正しいことを証明する 第二行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める 最終行動方針:アインストたちを倒す 】 【キラ・ヤマト 搭乗機体:なし パイロット状態:健康、疲労(大) 全身に打撲 現在位置:E-2 第一行動方針:ナデシコ組と和解する 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める 第三行動方針:首輪の解析( マシンセルの確保) 第四行動方針:生存者たちを集め、基地へ攻め入る 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】 「全く。若い者達は俺達があれこれ考えるまでもなく自分で動き、道を切り拓いて行くものだな、ブンドル」 「そう悲観するほど君は歳を取ってはいないと思うが。時代を作っていくのは若者ならば、維持していくのが大人の務めだ。 さて、私もユーゼスの動きが気がかりだ。彼らの後を追わせて貰うことにする」 「取り込み中のところ悪いが、一時間弱のものだが例の観測で興味深い結果が上がってきた」 「例の?」と発せられたブンドルの問いに「君もよく知っている」と返して、地図上のD-4地区を指差す。 そして、Jアークの端末を指し示した。 それで伝わったのだろう。盗聴を避けるためのタイピングでの会話が始まった。 『確かに空間の綻びは確認できるが、細かな状態を観測するのはこの距離では不可能だ』 『そうか……何となくでいい。場所の特定は?」 『不可能だ。D-4地区のどこかとしか言いようがない』 『何故だ? 綻びそのものは確認できたのだろう?」 『綻びの数が普通では考えられないほど多く、この距離では規模の違いが把握しきれない。 出来ることならば、至近距離での観測か長期間に及ぶ観測が望ましい』 そう言って表示されたデータを一目見て、呻きを上げる。 表示されたのは綻びの観測ポイントと発生時刻。 D-4地区と言わず異常な数の綻びが観測されている中で、D-4地区は真っ黒だった。 『時間がないな』 時刻と発生件数を追っていけば嫌でも分かる。綻びの発生数が指数関数的に増大している。 それも周囲に拡がりながらだ。 異常な速度で綻んではその都度繕われる空間。遠からず生地に限界が来てD-4地区は崩壊する。 そして、それが呼び水となり、この空間そのものもいずれ。 『どれほどもつと思う?』 『データが不足しているが、このままの速度ならばまだ数日は大丈夫だろう』 『そうか……もう一つ。扉を開けられるタイムリミットは?』 扉を開けるということは、綻びを掻き回すことと同義。強引に綻びを、空間の傷口を広げるのだ。 それに耐えられるだけの強さを空間が持っている内に、全てをやらねばならない。だがその残された時間は―― 『現時点では正確な判断はできないが、三十六時間以内には必ず迎えるだろう』 【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91) パイロット状況:健康、若干の疲労 機体状態:EN40% ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ ビームサーベル一本破損 頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾60% ビームライフル消失 ガンポッドを所持 現在位置:D-3南部 第一行動方針:首輪の解析とD-4地区の空間観測 第二行動方針:協力者を集める 第三行動方針:マシンセルの確保 第四行動方針:基地の確保 最終行動方針:ゲームからの脱出 備考1:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している 備考2:ガウルン、ユーゼス、テニアを危険人物として認識 備考3:首輪(エイジ)を一個所持 備考4:空間の綻びを認識】 【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・Sボーゲル(マクロス7) パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(大) 機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾所持 EN40% 左肩の装甲破損 現在位置:D-3南部 第一行動方針:首輪の解析を行ないつつしばらくJアークに同行 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」 第三行動方針:遭遇すればテニアを討つ(マシンセルを確保) 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】 【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL) パイロット状態:良好(主催者に対する怒りは沈静、精神面の疲労も持ち直している) 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊 ビームナイフ所持 現在位置:D-3南部 第一行動方針:甲児達の後を追う 第二行動方針:E-1へ。可能ならユーゼスよりも早くナデシコと合流 第三行動方針:マシンセルの確保 第四行動方針:サイバスターが認め、かつ主催者に抗う者にサイバスターを譲り渡す 第五行動方針:閉鎖空間の綻びを破壊 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ 備考1:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能 備考2:空間の綻びを認識 備考3:ガウルン、ユーゼスを危険人物として認識 備考4:操者候補の一人としてカミーユ、甲児、キラに興味 備考5:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】 【Jアーク(勇者王ガオガイガー) 機体状態:ジェイダーへの変形は可能? 各部に損傷多数、EN・弾薬共に100% 現在位置:D-3南部 備考1:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復 備考2:D-4の空間観測を実行中。またその為一時的に現在地を固定 備考3:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】 【二日目 13 15】 BACK NEXT 膨れ上がる悪夢 投下順 心の天秤 膨れ上がる悪夢 時系列順 心の天秤 BACK NEXT 獣の時間 アムロ 怒れる瞳 獣の時間 キラ 怒れる瞳 獣の時間 アイビス 怒れる瞳 獣の時間 カミーユ 怒れる瞳 仮面の奥で静かに嗤う ブンドル 怒れる瞳 仮面の奥で静かに嗤う 甲児 怒れる瞳
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/130.html
暗い水の底で ◆7vhi1CrLM6 闇夜の中にぼんやりと光る壁がある。 周囲を明るく照らすほどではなく、見過ごしてしまうほど弱くもなく闇の中に屹立するそれは、昼間に見たときよりも遙かに幻想的な姿をしていた。 その果てを見ようと視線を左右に走らせてみるが、遙か彼方で闇に吸い込まれていてその光跡は辿れない。 ならば、と上空を見上げてみるが結果は同じだった。 見上げた視線の先に星空が広がっている。 光の壁に覆われながらもぽっかりと口を開けた空は、そこから逃げ出せるようにも、それ自体が周到な罠のようにも思えた。 ――もしあそこから抜け出せたら……。 とりとめのないことを考えている。逃げ出せたら何をしたいかを今考えている。 考えても仕方のないことだと思う。今考えるべきは逃げ出した後のことではなく、いかに生き延びるべきかだということも分かっている。 それでも見上げた空は魅力的だった――。 思考が散漫になってきている。集中力もモチベーションも落ちてきているのは放送直後から自覚していた。 一つ大きく深呼吸。 伸ばした腕が光の壁に吸い込まれ、小石を水面に落としたかのような波紋が生じる。 注意深くすり抜けたその先で、壁の光りを受けた湖面がわずかに煌く。 しかし、それも壁のすぐ側だけの話で周囲は漠々たる闇に覆われていた。 ――暗いな。すごく暗い。 名残惜しそうに明るい壁際から離れ、まるで引きずり込まれているような錯覚を覚えながら暗い水面へゆっくりと沈んでいく。 水の中は果てしなく暗かったが、コックピット内部には灯りがあったことが幸いだった。少なくとも闇に脅えずにはすむ。 ――まずはゆっくり休もう。そして、目が覚めたら。 赤毛の少女の顔が頭の隅をかすめる。 ――その先は起きてから考えよう。 耳につく甲高いアラームのような音に跳び起きる。 呼吸が荒い。体がだるい。疲れが全く抜けきっていなかった。寝ていたのは正味一時間くらいだろうか。 「くそっ!」 鉄とオイルの臭いが鼻をつき、顔をしかめた。住み慣れた自分の部屋、体になじんだ自室のベッドの上……ではない。 ――コックピット? 未だに鳴り続ける甲高いアラームに無性に腹が立つ。 ――アラーム? はっとして周囲を見回す。鳴っているのは―― ――接近警報!! 「カティア、敵は――」 いつもの癖でそこまで言いかけて、言葉を失った。 ――いるわけないじゃないか……、彼女は……。 「くそっ!」 眉間に皺がよる。自分のうかつさが腹立たしかった。 しかし、そんなことにいつまでも気を取られている暇はない。慌てて状況を確認していく。 敵機はレーダー有効範囲内、ただし通信と目視の有効圏外。 通常ならばこの世界においてレーダーの有効範囲は目視のそれにはるかに劣る。 しかし、わずか数m先の確認すらも危うい夜の湖底に限って言えば、その関係は完全に逆転していた。 それは同時にかなりの近距離まで相手の接近を許していることを意味している。 ヴァイサーガの体勢を襲撃に備えたものに変える。巨体にかかる水圧のせいか動きが鈍い。 じりじりと距離が縮まっていく。 わずかな時間がひどく長く感じられた。やがて目視よりも早く通信圏内に互いの機体は収まる。 こちらから通信はしない、そう決めた。 進んで通信を行わないことのメリットは二つ。相手がこちらに気づいていない場合、やり過ごしと不意打ちの機会を得れること。 進んで通信を行うメリットは一つ。ニアミスの場合でも相手がテニアかどうか確認できること。 だがそこには期待と不安が入り混じっている。 確認したいという思いはある。会いたいという思いもある。でも少なくともテニアに会ってどうするか、まだ決めてはいない。 そんな状態で会うべきなのか――。 心が揺れ動く。自分は本当はどうしたいのか――答えは見えてこない。 そんな統夜に構うことなくピッと小気味のいい音をたてて通信が入ってきた。 「そこの大型機のパイロット、聞きたいことがある」 抜けるような青い髪の女。テニアではないことに安堵と失望を覚える。同時に頭の隅で打算的な考えも働いていた。 『大型機』と相手が口にしたことから、相手はこちらを既に視界にとらえていることになる。にもかかわらずこちらの目視圏外。ということはおそらく相手はこちらよりもだいぶ小さい。好戦的でもないようだしこのまま戦闘に発展させるよりは、一先ず通信に応じるべきだろう。 「なんだ?」 「ジョシュア=ラドクリフという青年を知らないか?」 「ジョシュア=ラドクリフ?」 その青年に会った覚えはなかった。しかし、名前を聞いた覚えはある。 ――たしか、放送で呼ばれた……。 「知らない。だけどその人は死んだんじゃないのか。聞いてどうするつもりだ?」 死んだ人間について聞いてくる。そのことが気になった。 「私は知りたい。ジョシュアがここで誰と会い。何をして過ごし、そしてどうして……死んだのかを」 「あんたは敵討ちをするつもりなのか?」 その問いに女性は左手を唇と顎にあて暫く考える姿勢を示した。やがて顔をあげて彼女は答えを返してくる。 「わからない。いや、はっきりとは言えないが違うと思う。私は」 一度言葉が区切られる。そして彼女は訥々と語り始めた。自分の内側を一つ一つ確認するように。 「私はジョシュアが先に死んだときのことなど考えてもいなかった。まったくひどい女だ。ジョシュアは私が死んだら、きっと私の為に何かしてくれたと思う。 でも私は、ジョシュアが死んだというのに何をすればいいのかまったく見当がつかない。だからまずは知ろうと思う。 おかしなことに私はジョシュアのことをよく知りもしないんだ。こころまで繋がっていたのに、よく知っているはずなのに、思い返してみると知らないことがいっぱいあるんだ。 だから、ここにいるあいつのことを知っているやつと会おうと思う。会って知ろうと思う。そうしたら何かできることが見つかると思うから……」 そこで言葉は終わり、あたりを静寂が満たす。わずかな機体の動きによって生じた空気の泡が水面を目指す、それだけの音がやけに大きく聞こえた。 向けた視線の先にあるはずの相手の姿は望めず、漠々たる闇を見つめる。言葉を探すが何も出てこない。 「名前――」 呟くように発した言葉は聞き取りにくかったのか、はたまた彼女にとって突飛な言葉だったのか、やや間の抜けた声が返ってくる。 「名前、教えてもらえないかな? 他の人にあったら聞いてみようと思うから」 聞いてどうする、聞いた後からそう思った。言葉に窮して出た質問だ、あまり意味はない。 「グラキエースだ。ラキとも呼ばれている」 「ファミリーネームは?」 「知らん。とういうかファミリーネームというのは何だ?」 「グラキエースっていうのはファーストネームだろ? グラキエースの後ろについてくる名前だよ。例えば俺の名前は紫雲統夜で、ファーストネームが統夜、ファミリーネームが紫雲」 「それだと私のファミリーネームは、グラキエースという名前の前にあるのではないのか? というかファーストネームなのになんで後ろほうなんだ?」 「ああ、日本人の場合は順番が逆になるんだ」 「何故逆になるんだ?」 「日本の場合は文化が……何で俺はこんなこと説明してるんだ?」 急にまじめに説明しているのが馬鹿らしくなってきた。そもそもこんなことを聞くことに大した意味はないのだ。 「知らん。よくわからんが名前を二つに分けるのならグラキ=エースでいいのか?」 「そうじゃなくて……。やっぱりもういい」 もう説明する気も失せていた。何か疲れたような気がする。しかし、久しぶりに気を張らずに会話をしたような気もした。 そんなこちらの状態に頓着せずにラキは質問を投げかけてくる。 「もう一つ、聞きたいことがある。アイビスという女を知らないか?」 アイビスという名前にわずかにひっかかりを感じた。感じたがその元が何なのかが思い出せない。 「いや……。知り合いか?」 「違う。だがジョシュアがここで会った女らしい」 不確かな回答。おそらくは誰かに会ってそのことを聞いたのだろう。 暫くの会話の後、レーダーのラキを示す光点がゆっくりと動き出す。 「もう行くのか?」 「ああ、手間を取らせたな」 「見つかるといいな」 「そうだな……」 わずかな名残惜しさを感じつつも彼女の光点がレーダーのレンジ外に抜けていくまで見つめていた。 常識の抜けた、どこか変わった雰囲気を持つ変な女性だった。毒気を抜かれたような気もする。 彼女は死んだ知り合い(あの口ぶりからすると恋人だろう)の為にできることを探していると言った。その為に人を探しているとも。 死んでいってしまったカティアにメルア。彼女たちの為に自分は何かできるのだろうか? そしてまだ生きている少女もいる。 ――馬鹿らしい。 ラキの知り合いはもう死んだ。死んだからこそ彼の為に何かしてやることができる。自分が生き残るという前提条件付きでだ。 しかし、テニアは生きている。一人しか生き残れないルールの内で生者にしてあげられることなど何もない。 そして、死んでいったカティアにメルア、彼女たちは自分よりもテニアの無事を願うだろう。わずかな時しか彼女たちと過ごしてない自分が、彼女たちの絆の間に割って入れているとは思いづらかった。 ――寝よう。 毛布をかぶり、シートに体を預ける。軋んだ音が小さく鳴った。 阻害された睡眠時間を補充しよう。寝れるときに寝ていたほうがいい。体も疲れている。そしてできるだけ楽しい夢を見よう。この殺し合い自体がベタな夢オチなんかだったらもう最高だ。 そう思って目を閉じる。 もしテニアに会ったら自分はどうするのか――答えはまだ出ない。ギュッと毛布を巻きこんで丸くなる。 ここに呼ばれる前はいつも大抵三人娘の誰かしらはそばにいた。そして、さっきここに来てから初めて人と普通にふれ合った。そのせいか目を閉じていても人恋しさが込み上げてくる。 グラキエース、彼女はもし生きているジョシュアに会ったらどうするつもりだったのだろうか――。 ――アイビス? 毛布を跳ねのけ起き上がる。汗がじわりと肌に浮かんできた。 知っている。聞いたことがある。確か小型の機体を踏みつぶしギンガナムを押しつけたときにあの青年が叫んだ名前。それがたしか――。 「アイビス」 ――ということはあの青年がジョシュア? 『敵討ちをするのか』と聞いたとき、彼女は『わからない』と答えた。同時に『たぶん違う』とも……。 しかし、彼女は死んだ者のためにできること探している。 名前をあの二人に名乗った覚えがある。彼女はアイビスに会ったら、いったいどうするのだろうか? 「あいつも俺の敵だったんだな……」 【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A) パイロット状態:疲労、精神状態が若干不安定 機体状態:無傷、若干のEN消費 現在位置:G-8水中 第一行動方針:朝まで休息 第二行動方針:他人との戦闘、接触を朝まで避ける 第三行動方針:戦闘が始まり、逃げられなかった場合は殺す 第四行動方針:なんとなくテニアを探してみる(見付けたとしてどうするかは不明) 最終行動方針:優勝と生還】 【グラキエース 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード) パイロット状況:精神やや安定。放送の時刻が怖い 機体状況:無傷 現在位置:F-8水中 第一行動方針:アイビスを探す 最終行動方針:??? 備考1:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません 備考2:負の感情の吸収は続いていますが放送直後以外なら直に自分に向けられない限り支障はありません】 【時刻:21 00】 BACK NEXT 大いなる誤解 投下順 星落ちて石となり 獅子身中の虫 時系列順 星落ちて石となり BACK NEXT 殺し合い 統夜 心、千々に乱れて マイペース二人 ラキ 私は人ではない
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/183.html
テッカマンエビル 機体名 テッカマンエビル 全長 2.36m 主武装 テックランサー テッカマン共通武装その1。双方に槍が付いており、接近戦または投擲に使われる。ブレードのランサーと違い二つには分かれないが、十字型に変型させる事が可能。また先端の刃は分離して飛ばせ、ワイヤーで回収できる。 テックワイヤー テッカマン共通武装その2。手首から鋼線を出す。元は投げた、または弾かれたランサーの回収用なのだが、エビルはこれを使って捕縛もやってのけた。テックワイヤーはランサーの先から鋼線を出す。ランサーの先っぽを鋼線に接続、振り回すことも可能。劇中では戦車をスパスパ斬ってた。 ラムショルダー エビルにのみ付けられた武装。主に突進などに使われる。 クラッシュイントルード 装甲を変形させ、体を細くし、高速で体当たりする技。移動にも使われる。 ボルテッカ テッカマン共通武装その3。テックセットした際に生じ、体内に蓄積した反物質粒子『フェルミオン』を加速させ発射する大技。同じテッカマンを消滅されるほどの出力を誇るが、人体に激しいダメージが来るため、テックセット1回につき1発までとされている。また一方向に直線状にしか撃てない弱点もある。 PSY(サイ)ボルテッカ ボルテッカの弱点である一方向直線状、1回1発制限を打開した技。出力、軌道をある程度操り、さらには相手のボルテッカをも吸収してしまう凶悪な技。出力を下げれは連射も可能。 自爆 技とは言いづらいが一応掲載。レイピア、アクスがやったように自分の体内のエネルギーを全てボルテッカに変換して爆発を起こす技。当然使えば死にます。 特殊装備 ― これといったものは無いが、テッカマンの装甲は核弾頭をも防げるほどの強度をもつ 移動可能な地形 空中○、陸地○、水中○、地中× 備考 「テックセッター!」の掛け声で変身したシンヤのテッカマン状態。エビルのテッカマンとしての特性は多目的汎用型。その特性に相応しく、様々な状況にも対処できる。テッカマンとしての能力は他のテッカマンの頭一つ飛びぬけており、高い戦闘能力を誇る。後にブラスター化したブレードに歯が立たなくなった際にはブレードの後を追いブラスター化を果たす。だが元々高い戦闘能力ゆえに、ブラスター化による不必要な進化が肉体が耐えられず肉体組織の崩壊が起きた。
https://w.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/319.html
□ 「あら~? ばれちゃったんですの。ほんとはお仕置きするところですけど……。 ま、悩殺出血大サービスで見逃してあげますの。あの仮面のオジサマ、私と近い存在……あの人相手じゃ仕方ないですもの」 少女―――アルフィミィは、楽しげにその声を聞く。 ネビーイームとデビルガンダムとの接続作業を行いつつ、首輪を通して聞こえる会話から箱庭の世界で繰り広げられている戦いを想像する。 そこにはユーゼスという彷徨い人、恋人を救うために修羅となった男テンカワ・アキト、そしてキョウスケ・ナンブがいる。 会いたい……その誰とも。そう思っていたアルフィミィにとってこの戦いは聞き逃すことのできないものだった。 人間。小さくか弱い、そして儚い命。その命を燃やし、戦っている者たち。 結果がどうなるのか、興味があった。誰が生き残るのか、何が起こるのか。 どうやら仮面の男と復讐者は手を組んだようだ。今、協力の代償とされたキョウスケとともに敵と戦っている。 ふと、空間に異常。数時間前にもあった、空間の歪み。 あの時とは違い、極小さなものだ。どうやらその中心はメディウス・ロクス、アルフィミィにも予想外の進化を果たした機体。 そんな機能はなかったはずだが、これもあの機体に搭載されている人工知能が学習した結果なのだろうか? まあこの程度なら進行に支障はきたさない。空間を閉じ、これもお咎めなしと――― 「えっ?」 前触れもなく。何故、と問う間もなく。 ネビーイーム、その下方に位置する木星の形の箱庭へと。 主が、赴いた。 閉じゆく歪み、その隙間へと滑りこむ。……やがて、感知できなくなった。 「そんな……どうしてですの? まだ、最後の一人は決まっておりませんのに……」 わからない。主が何を考えているのか。何故自分に何も言わず、箱庭に降りて行ったのか。 空間の穴は主の意志の総体が通れる大きさではなかったためか、行ったのは主自身の一欠片を切り離したものだ。 だが、欠片とはいえ紛れもない主自身。今の主には少しの余力もないはずなのに、何故? 「どこに……行かれたんですの?」 しかし少女に答えるものはなく――― □ 「はっ……はぁっ……やった。やったんだ、ベガさんの仇を……この手で討ったんだ」 撃墜した敵機を見下ろし、荒い息をつく。 操縦桿から手を離そうとするも、強張った指先は中々動かない。興奮が冷め、ようやくカミーユは冷静になった。 ピンポイントバリアパンチは正確に敵機のコックピットを抉った。生命反応はない―――殺した。 だが、達成感などない。怒りに任せて動いたものの、残ったのはどうしようもない気持ち悪さだけだ。 「なんで……なんでなんだよ。お前にも帰りたい場所があって、大切な人がいたんだろう……?」 落ち着いてみれば、あのパイロットが言っていたことも理解できなくはない。突然こんな戦いに放り込まれれば、錯乱もする。 ベガを殺したことは到底許すことなどできないが、それでも他に方法があったのではないか……そんなことを考える。 と、キョウスケから通信。 「カミーユ、落ち着いたか?」 「……ええ、中尉。すみません、勝手なことをして」 「構わん。お前は結果を出した……それに元はと言えば俺が下手を打ったのが原因だ。お前が気に病むことはない」 「でも」 「責任があるとするなら、俺と。そしてユーゼス、貴様だな」 キョウスケの乗るビルトファルケンは黒い特機へと向き直っている。その様はまるで今にも剣を交えんとする戦士のようだ。 「あの特機は何なのか。乗っていたパイロットはどこにいたのか。どうしてこんな事態が起こったのか。 そして貴様は何をしていたのか……答えてもらうぞ、ユーゼス・ゴッツォ。返答次第ではただでは済まさん」 キョウスケの声は静かながらも言い逃れを許さない剣呑さを帯びている。 自分もユーゼスは信用できない。ここはキョウスケの話を聞くべきだ。 もし、やつが想像通りの邪悪なら……再び、この機体を駆けさせることになる。ユーゼスの動き、欠片も見落とすまいと集中する。 「答えよう、キョウスケ・ナンブ。ただし」 響いた声は黒い特機からではなかった。 発信源……眼下のローズセラヴィー。ユーゼスは黒い特機に乗っているんじゃなかったのか。 カメラを向ければ、映像ははっきりとローズセラヴィーのコックピットハッチに立つユーゼスを映し出している。 一瞬。カミーユ、キョウスケともに注意がブラックゲッターから逸れた―――その刹那。 「がッ……!?」 鋼鉄の隼・ビルトファルケンを、復讐鬼・ブラックゲッターの斧が斬り裂いた。 「え……何を。何を、して、るん、だ……?」 キョウスケの苦悶。弾け飛ぶファルケン。 ブラックゲッターはその勢いのまま、今度はカミーユへと向かってくる。 「君が、それまで生き残っていれば、だが」 「キョウスケ中尉……キョウスケ中尉――――――ッ!」 落ちていくビルトファルケン。だが、その後を追えるほどの余裕を、斧を振りかぶるブラックゲッターは与えてはくれなかった。 □ 「……が、あ……」 目を開くと、とたんに何故目を開けたのかと後悔した。 視界いっぱいに広がる赤。体のそこかしこに突き立つ鋭い破片。 「……幸運は、二度も、続かんか……」 すべての始まりといえるシャトル事故を思い出す。エクセレンが死亡し、己は瀕死の重傷、だが生き残った事件。 「やったのは、ユーゼス……いや、おそらくはあの男、か。つくづく……甘いな。俺と、いう男は」 ビルトファルケンは辛うじてまだ空にある。だが、肝心の中身が……キョウスケは、もはや牙の折れた手負いの狼だ。 あのとき機体を襲った衝撃はコックピットの中を跳ね回り無数の飛礫と化してキョウスケを襲った。 致命傷だ。 モニターを見やれば、消去法で考えれば恐らくアキトが搭乗しているだろうブラックゲッターとカミーユの戦闘機が、激しいドッグファイトを演じている。 先程の人事不省寸前といった体からは考えられない鋭い動き。あの薬のおかげだろうか? 援護しようにも、腕がどうしようもなく重い―――操縦桿を引くことにさえ、凄まじい重さを感じる。 どうしようもない……いや。 薬。あの薬なら一錠持っている。念のためにアキトから奪っておいた一錠を。 得体のしれない薬、普段なら飲むはずなどないが――― (俺が蒔いた種だ。俺が刈り取らねば……な) 鉛のような腕をどうにか動かし、躊躇いなくカプセルを飲み下す。 どくん、と。 体の奥で何かが脈動した。 (痛み止め……ではない!? なんだ、この薬は……!) 凄まじい熱。次いで氷のような冷気。自分という存在が、浸食されていく。 「ぐ……がああああああっ!」 頭の中で激しく火花が散る。影、霧のような、何かが、見える―――これは。 時間が止まる。近づいてくるのは――― 視界が黒に染まる。おぞましくも懐かしい、この気配。 (捕らえた……ぞ) 首輪から、いや首輪の赤い球体から脳裏に直接声が響く。知っている、この声は。 (ようやく……届いた。我が……声が……) 「この……声、貴様はッ……!」 かつて打ち破り、そして今また己が運命を操ろうとする存在、ノイ・レジセイア。 撃ち貫くと誓った存在が、ここにいる。キョウスケのすぐ傍に。 (……お前こそ……ふさわしい。審判の……存在……) 「何を……言っている。俺に、何の用だ……!」 (お前は……またも、生き延びた。そして、我を受け入れるに、足る……器を、手に入れた……) 「受け入れる、器……? 俺を、支配しようというのか―――エクセレンのようにッ!」 (拒むことは……できない。お前は、選んだ……人でなくなる……ことを。我に……近い存在と、なる……ことを。だから、我と……繋がる、ことが……できる) あの薬。危険なものだとは覚悟していたが、まさかここまでのものだったとは予想していなかった。 キョウスケは知らぬことだが、件の薬一つ飲んだだけで人でなくなるということはない。 薬の正体は希釈されたDG細胞。アキトのように身体に欠落する箇所があるものが服用すれば、DG細胞はそこを補うように展開する。 対して健常者が使えば、DG細胞は拡散する場のないまま沈殿する。そして感染力の弱められたそれは、時間とともに体内の免疫細胞によって駆逐される運命にある。 キョウスケの不運は、体力の低下した状態で薬を服用したこと。 結果、普段なら駆逐されるべきDG細胞がさしたる抵抗もなく体内に行き渡ってしまった。 そして、宝玉から放たれるノイ・レジセイアの波動。意志を持たないDG細胞に指令を下し、その働きを統制するもの。 キョウスケの体の支配権は急速に奪われつつあった。 下手を打った―――後悔が頭をかすめ、だが同時に、どこか奇妙なほど冷静な内面の己が叫ぶ。 ―――ここが勝負所だ、と。 手の届かないところにいた主催者が、降りてきた。それも手の届くどころではない、己の内面という極めて近く……限りなく遠い場所に。 何故人間たるキョウスケの身の内に降りるのか。アルフィミィの気まぐれか、あるいはそれほど差し迫った理由があるのか――― どちらにせよ、好機。 かつてエクセレンがそうであったように、アインストとなった自分が突破口となる―――この箱庭の戦いの。 賭けに負け、自分が自分でなくなったとしても……止める力はある。かつての仲間たちと同じ、信頼できる力が。 「くくっ……ああ、いいだろう……この身体、存分に貪るがいい。だが、もし貴様が俺を、人間を、取るに足りない存在だと驕っているのなら」 不思議なことに、微かに楽しくなってきた。 そう、キョウスケ・ナンブという人間を端的に表すのなら一文で済む。 ―――分の悪い賭けは嫌いじゃない。 「遠くない未来……貴様は再び打ち砕かれる。 この牙を貴様の喉笛に突き立て、その存在を欠片一つ残さず消し去ってみせる。今度こそ、完全にな」 言葉を切ると同時、気配が遠ざかり、首輪の球体から赤い、まるで血のような靄が吹き出し体を覆う。 落ちていく鋼鉄の隼。その先に眠るは、相棒たる鋼鉄の孤狼。 「フッ……そうだな、お前がいなければ始まらんな―――アルト。付き合ってくれ、地獄の底のさらに下、俺の、最後の戦場へ……!」 鋼鉄の系譜……ともにつがいを失ったものが、互いに互いを抱擁する。これが始まり―――キョウスケは目を閉じた。 □ 「テンカワ、といったか。目的は果たしただろう、ここは退くぞ」 「……俺としては、この機体もここで仕留めたいのだがな。退く理由はない」 可変戦闘機……おそらくYF-21と同じバルキリーであろう機体と干戈を交えていると、ユーゼスが通信してきた。 あの化け物のような機体からだ。横目で見やると、驚くべきことにあれだけの攻撃を受けてもあの機体は健在だった。 とはいえパイロットはさすがに死亡したようだ。 仮面の男が抉り取られたコックピットから何かを引きずり出し、放り投げるのが見えた。 どうも人体のパーツであると思わしきそれらは大地に叩きつけられ、粉々になった。 「仕留められるのならそれもいいが、何があったか私にも把握し切れてはいない。 君の位置からも見えるだろう? ファルケンがアルトと未知の反応を起こしている。 墜落したキョウスケ・ナンブがなんらかの変化をもたらした公算が大きい。現時点では交戦を控えるのが賢明だ」 見れば、墜落したキョウスケの機体はアルトと溶け合っていくように見える。 まさか斧の一撃で機体が融解するほどの熱量が発生するわけもない。何かが起こっているのは疑いのないことだった。 アルフィミィからアルトを譲り受けた時のように、いささか信じがたいものであったが。 「だが、こちらは二機だ。どうであれ押し切れるのではないか?」 「君が健常ならな。ああ、言ってなかったがブラックゲッターの中はモニターさせてもらっていたよ。 大事そうに抱えてきたあの薬は劇薬のようだが、確証はあるのかね? 効果が切れるまでにあれとその戦闘機を倒せると」 「……ないな。だが薬にも限りがある。一つ使ってしまった以上、おいそれと引くわけにはいかん」 ユーゼスの抜け目のなさというより自分の不用心さに憤る。薬のことを知られたのは痛い。 「その点は問題ない。サンプルさえあるなら今のAI1はどんな薬だろうと量産が可能だ。 もちろん、君が私に貴重な薬を一つ預けてくれるなら、という条件付きではあるが」 「何が狙いだ、貴様。俺が優勝を狙っているのは知っているだろう」 「さあ、どうせ何を言っても君は信じはしまい? だからこうとだけ言っておこう。『どちらでも構わん』と」 「……どういう意味だ」 「何、そのままさ。君が私を信じようと信じまいと、どちらでもいい。 信じないのならここで別れるだけだし、信じるのならそれなりの見返りは約束しよう。どのみち最後は戦うことになるのだろうしな」 「条件付きの同盟というわけか」 「そうとってもらって構わん。……おっと、これ以上言葉遊びに時間を費やすのもいかんな。さあ、選びたまえ。私とともに来るか否か」 「……いいだろう。俺からの条件は薬と情報だ。それを満たすのなら貴様の指示に従ってやる。 ただし、残り5人あたりになれば手を切らせてもらうがな」 「ふむ……交渉成立だな。では行こうか」 戦闘機もアルトの変化に気づいたようだ。パイロット―――キョウスケの名を叫びつつ距離を取り、旋回している。 といってもこちらに隙を見せているわけでもないが、少なくとも注意は向けられていない。離脱するのは容易かった。 戦域を離れ、ある程度距離を置いたところで語りかける。 「で、どこへ向かう。基地に向かってくるやつはいるはずだ。そいつらを狙うのか?」 「さしあたっては別の施設だな。君の薬のこともある。研究所などがあればいいのだが」 「施設……それなら心当たりがある。と言っても、問題はあるが」 「ほう?」 「戦艦を二隻、確認している。一隻は戦いに乗っていて、もう一隻は不明だ。俺としては……後者、ナデシコを探すことを薦める。あれならば研究設備も充実しているからな」 「ほう……勝手知ったる口ぶりだな?」 「……貴様には関係ない」 「フ、まあいい。では当面そのナデシコなる艦との接触を目標としよう」 「もう一つ、言っておくことがある。どうせ知られることだから言っておくが、この薬は30分しか持続しない。 あと数分で俺は動けなくなる。その間、貴様が俺を撃たない保証はあるか?」 「副作用……か。安心したまえ、ここで君を切り捨てはせん。この機体、『ゼスト』も今は戦闘を行える状態ではない。 君が薬を必要とするように、私も護衛を必要としている。利害が一致している間は守り、守られ合う関係であろうではないか」 「貴様を信用することはしない……だが今はその言葉、乗ってやる」 「何よりだ。しばしの間、よろしくな……共犯者よ」 共犯者。仲間、相棒などと称されるよりよほど合っていると思った。 どうせ目的を果たすまでの仮初の同盟。いずれ殺す相手に必要以上に気を許してはいけない。 特にこの仮面の男は底が知れない。迂闊な隙は見せられない。 ……不意に、自分が討った男を思い出す。 ユリカを失った自分と、まるで鏡に映したような境遇の男。違うとすれば悪魔の誘いに乗ったかどうか。 内心はどうあれ、あの男は自分を助けた。だがその返礼として自分は彼を背中から斬った。 後悔はないものの、胸が痛まないということはない。 しかし、何故か悪寒が消えない。戦斧は確実にコックピットを切り裂いた、それはたしか。 なのにあの紅い機体は狙ったようにアルトアイゼン、己が放置した機体のすぐ傍に落ち、融合を始めたのだ。 傍目にも尋常な様子ではなかったが、はたしてあの変化の内部にいた男は無事なのか。 万が一無事だったとして……その時キョウスケは、もはやアキトを保護すべき対象としては見ないだろう。 次に会ったときはその身を喰らい合うことになる、それは確実だ。 ガウルンともまた違う、奇妙な縁ができた。影と戦うようなものだ、とおかしさがこみ上げる。 (キョウスケ・ナンブ。許しを請うつもりはない……だから、俺の前にお前が立ちふさがるのなら、何度でも) 決意は変わらない。何よりも重いのは、ユリカの命だ。訪れ始めた禁断症状に身を任せながら、強くその覚悟を確かめる。 (そう、何度でも撃ち砕く。戻る気はない……これが俺の、俺にできる唯一の……贖罪なのだから) □ 通信を切る。宣言通り失神したらしい男から直前に譲渡された操縦権を用いて、ブラックゲッターにメディウス・ロクスを抱えさせる。 どうやら主催者は機体を支給する際手を加えたらしく、オートパイロット・自動操縦プログラムなどは使えないようだった。 先のローズセラヴィーにしても、直前で自動操縦プログラムにエラーが発生し、管制塔から慌てて走るはめになった。 あの場をキョウスケに目撃されていればまた違った結果になっていただろうと、冷や汗を拭う。 その制約がなければAI1を用いてブラックゲッターを操縦し、テンカワ・アキトを切り捨てることもできたのだが、ざっと調べた限り手の打ちようがなかった。 どうやら機械的な問題ではなく、異質な技術……アインストの力が用いられているようだ。未知の技術に策もなしに踏み込むのは躊躇われた。 まあ仕方ない。排除することができないのなら、利用することを考える。 この男、テンカワ・アキト。 先程の動きをみるに、腕は確か。そしてあの割り切った態度、道行きを共にするには申し分ない。 だが……失望した。この男は己を滅する敵たり得ない。 この男にはキョウスケ・ナンブほどの信念を感じない。おそらくは優勝すれば望みが叶うという口車を信じたのだろう。 だがその望みがかなう保証はどこにもない。己が主催者の立場なら、今頃さぞ口角を吊り上げているだろう―――哀れな道化。 自ら勝ち取る道を選ばず、ただ与えられるものを享受する……そんな輩に興味などない。 しばらくは協力するが、メディウス・ロクスが再生しAI1が問題なく稼働するようになればいつでも切り捨てる、仮面の魔人にとって黒き復讐者はその程度のものだった。 薬の供給量や成分に手を加えれば、手駒として操ることもできるが……後の楽しみだ。護衛が必要なことは事実であるし、今はこの同盟を切るわけにはいかない。 また、基地を放棄したのも些事だ。 大方の解析は済んでいて、そのデータはこの頭脳の中にある。あとはある程度の設備があれば首輪の解除は可能。 ベガは……惜しいことをした。彼女にはまだまだ有用性はあったのだが、まあ仕方ないことだ。 カミーユ・ビダン。これもまた、些事だ。賢しいだけの子供などいくらでもあしらえる。 当面はナデシコなる戦艦を探しつつ、首輪とバーニィが遺した戦闘データを解析する。 これでAI1はまた成長できる。あの半端者も、最後の最後で少しは役に立ってくれた。 それよりも、思考を占めるのはキョウスケ・ナンブのこと。 アキトの一撃はたしかにやつに致命傷を与えたはず。だが、この背筋に残る怖気は何なのだろうか。 死んではいない―――そんな予感が頭から離れない。 あの男の操縦技術、決断力はたしかに目を見張るものがあった。 しかしそれだけではこの状況を説明できない。撃墜し、沈黙したと判断したその瞬間、あの得体のしれない気配は生まれた。 念動能力者でもサイコドライバーでもないキョウスケ・ナンブとただのパーソナルトルーパーでは成し得ない事態。 要因として考えられるのは、メディウス・ロクスが仕掛けたヘブン・アクセレレイションだ。 あれは一瞬、確かに次元に穴を開いた。そしてあの向こうにはアインストの支配する空間があった。 バーニィ如き未熟者でなく自身が乗っていたなら正確に観測できていただろうが、是非もないことだ。 とにかくあの一瞬、アインストの空間から何かが「紛れ込んだ」のだ、この世界に。 キョウスケ・ナンブの話では、彼は主催者の化け物と浅からぬ因縁があるという。 主催者がキョウスケを死なせないために行動したということだろうか。 だが解せないのは何故時間をおいてあの気配は発現したのか。 キョウスケ・ナンブが何らかのアクションを起こした―――何を? だがその答えは現状では導き出せない。 ともかく、生死が確認できていないのなら、やつは生きているとして扱うべきだ。 そして生きているならあの男は今度こそ向かってくる、必滅の決意とともに。 ぶるり―――と、我知らず肌が泡立った。愛しき宿敵以外にこんな感情を持つのはいつ以来だ? まったく、退屈しないな、この世界は―――哄笑を抑えきれず、身を反らす。 いいだろう、来るがいいキョウスケ・ナンブ。私は逃げも隠れもせん。 お前の牙がこの身に届くと信じているなら……喜んで相手をしてやろう。 己が映し身のように、彼に導かれたサンプル達のように。「力」を、更なる力でねじ伏せることで。 「その意志が、その熱が―――私を遥か超神の高みへと、押し上げるのだからなぁ―――!」 □ 「キョウスケ中尉! 応答して下さい、キョウスケ中尉!」 ニュータイプの感性に頼るまでもなく、わかる。 今、キョウスケ・ナンブという男は変わりつつある。 寡黙だが信頼できる男の発する気配は、時を追うごとに歪んだ何かへとすり替わっていく。 「……カ、ミ……ユ。き……える、か……」 「キョウスケ中尉! 無事なんですか!?」 「……いい、か、よく、聞け。ユー……ゼスは、危険だ……。奴と、もう、一人。テン、カワ……アキトという、男……こいつらは、危険だ……躊躇う、な、倒せ」 聞こえてきたのは己のことではなく、敵のこと。まるで、仲間に後を託して逝く戦士の声。 「あなたは……何を言ってるんです! すぐに救助します、もう喋らないで下さい!」 「聞け……ッ! 俺は、もう……長くは、持たん……。エクセレンの時と、同じことが……時間が、ない。不本意、だが……お前に、託す。聞くんだ……」 「そんな勝手なことを……!」 強引にでもコックピットから引きずり出して……そうしようとした瞬間、眼前の異常に目が奪われる。 ビルトファルケンの鋭角なシルエットが崩れる。下敷きとしていた蒼い機体と溶け合っていくように、一つになって。 真紅と、深蒼が、混じり合う。 「俺は、かつてあの、化け物……ノイ・レジセイア……を、撃破、した。やつが何故、蘇ったのかは……知らんが、決して、倒せ、ない存在では……ない」 何かが、生まれる。存在してはいけない何かが。 だがその渦中の男は構わず喋り続ける。かつてあった戦い、その結末を。 そしてこの世界であった、新たな戦いを。 「カミーユ……力を、集めろ。お前……だけでは、足りん……もっと多くの、強く、激しい力、で……今度こそ、やつの、存在……を、消し去る……ん、だ」 「中尉……ッ!」 「力が……集ったのなら、……カミーユ。まず、俺を……殺しに、来い。 他の誰でもない……お前が、だ。俺の声を聞いた、お前が……俺を、止めろ」 「何を、言ってるんです、中尉? どうして俺があなたを殺さなきゃならないんですか!?」 「俺は……やつらと、同じ……存在に……アインストに、なる。 だが、恐らく……ユーゼス・ゴッツォ、あの男……は、それ……さえも、利用……しようと、する、だろう。 だから、その前に、お前が……俺を殺せ。あの男の……良い様に、踊らされるなど……真っ平だから、な」 「俺に、あなたと同じことをしろって言うんですか!? ゼクスさんやカズイを殺した、あなたと……!」 「ゼクス……、そうか、やつも……こんな気分、だった……のかも、しれん、な……お前には、重いものを、背負わ、せる……すまん、な」 不意に、水音。大量の水をぶちまけたような。狭いコックピットで考えられるものなど、一つしかない―――血だ。 「もう……行け。そろそろ、限界……俺が、俺でいられるのは……ここまでの、ようだ……」 「中尉、俺は……俺は……ッ!」 「……行けッ! カミーユ・ビダンッ!」 もう口を開くことさえ辛いはずなのに、その一喝はカミーユを怯ませる。 「ま……待って下さい、俺はまだ、あなたに……ッ!」 「ベガはお前を守って……死んだのだろうッ! その命、もはやお前の勝手で容易く捨てられるものではないぞ! 生きろ……戦え、カミーユ! お前が生きて、やつらを討てば……それが、俺達の勝利だッ……!」 「……中尉」 と、もはや形も定かではないビルトファルケンの腕が伸びる。携えていたオクスタン・ライフルを、こちらに放り投げた。 「これを……使え。 ……勝て、カミーユ。お前には……力がある。想いを、強さへと変える、ことが……できる、力が。俺の……命。持って、行け……」 「あ……お、俺は……!」 「行け……カミーユ。死ぬな、よ……」 やがて、真紅が駆逐され、深蒼が湧き出でる。 二機の影は一つになった。 ―――蒼い、アルトアイゼンに。 「……ッ、……う、あッ……あ、うぁぁあああああああああああァァッッ!」 ライフルを拾い上げ、ファイター形態へと変形。変わっていくビルトファルケン……否、もはや隼でも古い鉄でもない機体から、「逃げる」。全速で、振り返らず。 (俺は……俺は……ッ! 守ってもらうばかりで、あの人たちに何も……何も!) 「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」 もう背中を守ってくれたキョウスケはいない。隣で支えてくれたベガも、前に立って導いてくれたクワトロも。 危険と、邪悪と知りながらユーゼスを放置した、その自らの甘さが招いた惨劇―――ベガと、キョウスケが代わりにそのツケを払った。 クワトロとは出会うことなく死に別れた。すべてが遅すぎたのだ。 後悔、怒り、悲しみ、憎しみ。そのすべてが混沌となり、だが皮肉にも身体を突き動かす力へと変わっていく。 貫くもの、「槍」を模したライフル。キョウスケから託されたこの力、この想いで。 「やってやるさ、やればいいんでしょうッ! ユーゼスも、アキトってやつも、あの化け物も……そしてキョウスケ中尉、あなたも! 俺が……俺が、全て倒すッ! あなたの望み通りに……あなたを、ベガさんを、クワトロ大尉を―――勝利させるために……ッ!」 身体の奥に、熱い―――熱い、炎が灯る。すべてを灼き尽くす、根源の力。 今、この荒ぶる熱とともに誓うべき言葉は、ただ一つ。そう――― 「すべて……撃ち貫いてみせる……!」 【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルⅡ(マクロス7) パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。精神が極度に不安定 機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾-残弾0 EN残量・火器群残弾ともに10% 現在位置:G-5 第一行動方針:対主催戦力と接触し、仲間を集める 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」 第三行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】 【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭、疲労状態 薬の副作用中・残り1時間 機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可) 現在位置:F-7北東部 第一行動方針:ナデシコの捜索(とりあえず前回の接触地点であるD-7へ) 第二行動方針:ガウルンの首を取る 第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す 最終行動方針:ユリカを生き返らせる 備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。 備考2:謎の薬を3錠所持 備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可 備考4:ゲッタートマホークを所持】 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス パイロット状態:若干の疲れ 機体状態:全身の装甲に損傷、両腕・両脚部欠落。EN残量20%。コックピット半壊、自己再生中 現在位置:F-7北東部 第一行動方針:ナデシコの捜索、AI1のデータ解析 第二行動方針:首輪の解除 第三行動方針:サイバスターとの接触 第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒 第五行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい? 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る 備考1:アインストに関する情報を手に入れました 備考2:首輪の残骸を所持(六割程度) 備考3:DG細胞のサンプルを所持 備考4:機体の制御はAI1が行っているので、コックピットが完全に再生するまで戦闘不能】 【メリクリウス(新機動戦記ガンダムW) 機体状況:??? 現在位置:G-6基地内部】 【月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー) 機体状況:右半身大破、月の子全機大破、EN残量0 現在位置:G-6基地】 【バーナード・ワイズマン 搭乗機体:なし パイロット状態:死亡】 【残り21人】 【二日目 7 55】 □ (行った……か。まったく……世話の焼ける……) もはや声が出ているかも定かではない。 だが不思議とキョウスケに恐怖や後悔といった感情はなかった。 (エクセレン……遅くなって済まないが、まだお前のところには行けないようだ……) 意識は朦朧としているのに、感覚が広がっていく。機体に神経が繋がるような…… これはそう、アルト。いや、ゲシュペンストMkⅢという方が正しいか。アルトは蒼くはないものな……と、かすかに笑みがこぼれた。 (気がかりはユーゼスとあの男……手の内をすべて見せたわけでもあるまい。まだ何か企んでいるか……) そして、主催者。アルフィミィにノイ・レジセイア。問題は山積みだ。 (……だが、勝つのは俺たちだ。ノイ・レジセイア、何をしようと貴様の滅びは決まっている。俺達を敵に回した時から、な) 意識が消えるその刹那。彼女が、笑った気がした。 『ほんと、分の悪い賭けが好きねぇ』 (フン、何とでも言え……見ていろ、あいつは来る。俺を……撃ち貫き、この闘争の世界を、破壊するために。 俺の命をチップにしたんだ、それくらいの配当がなければ釣り合わん……なあ、そう……だろう―――カミー、ユ―――) 勝て―――その意志を残し。 ―――そして、「キョウスケ」が沈んでゆく――― □ 静寂の……世界。創らねばならない…… 望まぬ……者を……望まぬ……世界を……破壊しなければならない…… 人間……これこそが……この、身体こそが…… 試す……そう、試さねば……この器が、新たな、宇宙を……創るに足る、ものか…… すべて……消去する。我の前に……立ちふさがる、者は…… ――――――すべて、撃ち貫くのみ―――――― 【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2) パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染 機体状況:アインスト化。 現在位置:G-6基地跡地 第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く 第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。 最終行動方針:??? 備考1:機体・パイロットともにアインスト化。 備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼンとほぼ同一。 ただしアインスト化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。 ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。 実弾装備はアインストの生体部品で生成可能。 胸部中央に赤い宝玉が出現】 【アルフィミィ 搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム) パイロット状況:良好 軽い混乱 機体状況:良好 現在位置:ネビーイーム 第一行動方針:バトルロワイアルの進行 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】 BACK NEXT 風と雷 投下順 生き残る罪 選択のない選択肢 SIDE:A選択のない選択肢 SIDE:B 時系列順 適材適所 BACK 登場キャラ NEXT 家路の幻像 ユーゼス 最後まで掴みたいもの 家路の幻像 アキト 最後まで掴みたいもの 家路の幻像 カミーユ 獲物の旅 家路の幻像 キョウスケ 生き残る罪 家路の幻像 バーニィ 古よりの監査者 アルフィミィ 揺れる心の錬金術師 古よりの監査者 ノイ・レジセイア